第241話
「僕に付けって言われてきたんだっけ?」
僕、ルアナ、ヴィオレンツァの三人がそれぞれ距離をとって座る形となってから、前置きも何もなしに切り出した。
一応、僕の後ろにラセツが立っているけど、グスタフは奥に下がらせた。何かあった時にヴィオレンツァの視界外にもこっちの仲間を置いておきたいっていうのが主な理由だけど、もう一度感情的に暴れ出す可能性を考慮したというのもある。
ちなみにラセツはというと、僕が座るなり黙って渡した茶菓子を黙々とかじっているから、今はとても大人しい。
「はい、そうです。あくまでも目的はヤマキ一家への助勢、ですが」
ヴィオレンツァは紅茶で唇を軽く湿らせてからそう答えてくる。毒とかそういうのを一切疑わないのは迂闊なのか豪胆なのか……。
「助力はありがたいのですが…………なぜ突然?」
そこにルアナが慎重な様子で発言した。「ありがたい」なんて微塵も思っていないどころか、逆の感情を抱いているのが無表情なのにありありと伝わってくる。だけど、一応言葉遣いを含む態度は丁寧なものだ。
ルアナからするとヴィオレンツァは上部組織の幹部だから、下手に出るのも当然。だけど、ヤマキ一家は頭領からしてドン・パラディとは水と油って感じだから、こういう含みのある態度になるのもまた当然だろうね。
一応、僕も立場としてはパラディファミリーの幹部相当である相談役であるわけで……。ヤマキ一家においても相談役としての派遣ではあるけど、上部組織の幹部ということでいえば、ヴィオレンツァと同じ立ち位置だ。だけどルアナからの態度にとげとげしさがないのは、ひとえに僕とヤマキの関係性によるものなんだろう。
ゲーム『学園都市ヴァイス』での『アル・コレオ』は、特にストーリー前半の方では小癪というか小悪党の権化みたいな奴だから、その段階で出会うヤマキ一家とはとにかく折り合いが悪い。だけど、今の僕は幸いにしてヤマキともある程度うまくやっているから、その結果としてルアナからの態度も相応のものになっているんだろうね。
まあ、これまでの感じからいって、どういう事情であってもヤマキと対立すれば、このルアナは僕のことも平気で刺しにくるだろうけどね。そういうタイプだっていう風に直感している。フランチェスコあたりはそういう状況になったら面白い感じに苦悩してくれそうだけど、それはそれで自分の部下じゃないから面白がれるということではある。
「私達の耳に偶然このヴァイスでの事情が入ってきたものですから。知った以上は無視するなどということはできません。ドンはそういうお人です」
ヴィオレンツァがドンといえばドン・パラディ、つまりはサティのことだ。「そういうお人」と言う時のヴィオレンツァは普段の冷静ぶっている表情とは違った熱を帯びていて、奴に心酔していることが傍目にもよくわかる。
というか、偶然耳に入ってきたなんて、よくそんなことを白々しく言えるもんだね。あのパラディファミリーが各地の下部組織を見張らずに自由にやらせるなんてあり得る訳がない。そもそもそれがコレオ家の裏の顔でもある裏組織としての本来の役割なんだし。
「そうですか……」
ルアナの方はというと、そんなヴィオレンツァの戯言を真に受けるような世間知らずではないけど、一方でそれを正直に追及してしまうような間抜けでもない。要は少なくともこの場では断片的にでも教えるつもりはないという意味だと理解したようだった。
ここまで見てきた感じからして……、ヴィオレンツァには“本当の狙い”っていうのはそもそも教えられていないっていう可能性もあるようにも思えるけど……ね。色々と知っているとしたらインガンノの方だけど、あっちはあっちでどこかに行ったまま姿が見えないしなぁ。
ようやく尻尾を掴んだ厄介な連中をこれから叩き潰すだけだったっていうのに……。どうにも色々と気を回さなくちゃいけないことになっているみたいだね。
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