第240話
とにかく拠点の中に入ってから、腰を落ち着けて話をしようということになった。だけど考えてみると、元は何かの商店であったらしい僕らの拠点は奥の倉庫だった場所を会議室風にした部屋くらいしかそういう所はない。入ってすぐの店舗スペースだった場所なんて何も置いてなくてがらんとしたままだしね。
見られて困るような物なんてないはずとはいっても、普段使いしている会議室をルアナはともかくヴィオレンツァに見られるのはなんか嫌だな……。感情的な話ではあるんだけどさ。
「……え?」
そんなことを考えながら先頭で拠点に入った僕は、すぐに目に入った光景を見て間抜けな声を出してしまった。
「どうした、アル君? ……は?」
僕の反応を不思議に思って続いて入ってきたグスタフも、同じように困惑する。
その後に入ってきたルアナとヴィオレンツァはともかく、ラセツが無反応なのはこっちが戸惑うけどね。
「あれは……」
いや、ラセツはテーブルの上に並べられた茶菓子に釘付けになっていただけみたいだ。
茶菓子……そう、茶菓子だ。この部屋は何もない元店舗スペースだったはずなのに、テーブルと椅子が並べられ、その上には茶菓子まで用意されていた。
「どうぞ、お掛けください」
さらには湯気が立つ紅茶が載ったワゴンを押してライラが登場する。用意されているカップの数は三個。五個なら偶然数が一致したとしてもわかるけど、この数はつまり僕がルアナとヴィオレンツァという二人の“お客さん”を相手にするためのものだ。
ルアナが来ることも予定になかったことだけど、ヴィオレンツァの方は意外も意外という出来事だった。さすがにこれを予測していたなんてありえないから、グスタフが殴りかかろうとした表でのごたごたが起こっていた短い時間にこれらを用意したってことだろう。
サイラもいるだろうからテーブルや椅子についてはわかるけど、茶菓子や紅茶を用意したライラもすごいな。というか、そう意識してよくよく見ると、ほんの微かに息が上がっているようだ。
まあ、身内の手品じみた早業に感動している場合でもないか。
「二人もどうぞ」
僕はさっさと先に座ってから、ルアナとヴィオレンツァにも席に着くよう促したのだった。
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