第235話
目の前にはパラディファミリーの幹部が二人。名目上は僕からすると仲間で、ヤマキ一家からすると上部組織の人間ってことになる。だけど……。
今にも襲い掛かってしまいそうな自分がいる。
それは当然、一度完膚なきまでにやられてしまった相手だからだ。僕が直接やりあったのはドン・パラディであるサティだったんだけど、グスタフ達がこのヴィオレンツァとインガンノにぶつかって負けている。
僕らはあの時とは違う……。
それは感情的に思い込んでいるような話ではなくて、事実だ。僕は戦い方から大きく変わるほどの新しい魔法の使い方を身につけたし、グスタフはシェイザ家としての剣術という基本は変わっていないけどそれを磨き上げてきた。ライラとサイラはそもそも正面戦闘を得意とはしないけど、そこを補って余りあるラセツだって今はいる。
「……」
「わあ、怖い目で“相談役”君が見てくるのー」
そんな一方的に一触即発となっている僕の視線を受けて、ヴィオレンツァは無言のまま余裕の態度だけど、その目は好戦的な色を宿している。インガンノは対照的に、露骨に挑発的な言葉を投げてきたけど、その目はどこか冷静で、実際にここで僕とやりあう気なんてさらさらないって感じだ。
「今はちょいと忙しいって時なんですが、何ぞ用ですかい?」
そんな僕らの間の空気をあえて壊すように言葉を挟んできたのはヤマキだった。いつの間にか、ルアナとフランチェスコはヤマキのすぐ左右に控えていて、他のヤマキ一家構成員は建物までの道を塞ぐような位置に立っている。
「ととさま……、このような時こそ冷静になるべきじゃ」
そしてラセツもいつの間にか僕のすぐ後ろに移動していた。ラセツには僕らとサティ達との一件については当然話している。だからこそ、僕の態度から察して軽率に行動しないよう声を掛けてきたようだ。
……うん、冷静さを失いかけていたのは僕だけだったようだ。
ちょっと恥ずかしいような、あるいは頼もしいような感情のおかげで、かなり思考と感情が落ち着いた。
「……ふ」
そんな僕を見て無言だったヴィオレンツァはほんの小さく笑った。口の端を微かに曲げる程度の微笑だったけど、それはどこか残念そうなものだった。
どうやら、このヴィオレンツァは僕が感情に任せて殴りかかって来るのを期待していたようだ。噂通りの戦闘狂ってことか……。
「面白いことにもならないみたいだから、話を進めていいのー?」
そしてこっちは相変わらず能天気な口調ながら冷めた感情を滲ませて、インガンノが先を促してくる。
デルタファミリーに明日仕掛けるため、動き出そうとしていた矢先に出鼻をくじかれたのはこっちなんだけど……? と言いたい気持ちはぐっとこらえる。そこで怒ると余計にインガンノのペースに巻き込まれそうな気がする。
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