第232話
「おう、待ってたぜ」
「……」
いつもの応接室に通されると、低めのテーブルの向こう側にあるソファにはヤマキが座って待っていた。前かがみで両肘を膝の上に置いた姿勢は気持ちが逸っているようで、何か大きな情報が得られたということらしい。
そしてヤマキの座っているソファの後ろにはルアナが控えている。最初に軽くお辞儀だけしてきたけど口は開かなかった。それもやはり、世間話なんかをする暇もないということなんだろう。
「それで……どうだった?」
ヤマキの対面のソファに腰かけて、すぐに状況を質問する。ラセツも何も言わずに僕の後ろで立っている。何となくその視線はルアナを興味深そうに見ている気もするけど、何か口を挟んでくることもない。
「結論から先に言うと、ようやく尻尾を掴んだ」
にやりと口端を歪ませながらのヤマキの言葉に僕の方も思わず表情が緩む。それを期待していた訳だけど、実際に思惑通りにいくというのは気分がいいものだ。
「ジゴロウはやっぱり末端の雑魚ではなかったんだね」
グスタフと二人がかりで戦った時の感触を思い出して、しみじみと呟いた。結果としては一瞬で昏倒させたけど、内容としては闇魔法での奇襲がうまくいったという感じだし、何より二対一だったからね。そもそも僕の最初の攻撃にはまともに対処されてしまったし、そこからのグスタフの追撃に対しては何か反撃の気配すら匂わせていた。防御は疎かで攻撃に特化したような相手だったからこそ、一歩間違えれば……という怖さは今考えてもある。
「奴はデルタファミリーの幹部だ。
「魔法薬を蔓延させた後の代金回収役ってこと? それとも金貸しもやるつもりだったってことかな?」
「どっちもだな」
なるほどね……。まあ、なんだかんだと苦労した成果発表会の日の成果が、どうやら有用な結果であったらしいというなら僕としては嬉しいことだね。
「奴らの根城は?」
そして一番重要なことは確認できたのかと質問すると、ヤマキは待ってましたとさらに凶悪な笑みを浮かべつつ手を組む。思い出して頭の中で情報を整理するような一瞬の間があってから、ヤマキは口を開く。
「デルタファミリーの幹部はあのジゴロウのほかに、ボスを含めて三人。そしてそいつら四人組が実質的に“デルタファミリー”ってことらしい」
「…………は?」
聞いた言葉を考えた上でよくわからなかったから、思わず間抜けな音で息を吐いてしまった。
「そうなるよな? だが儂らがこれまで散々追いかけて捕まえてきた連中は末端も末端……、売人や連絡役、それに火球をしていて組織のことなんて何も知らねぇ使い捨ての連中ばかりだってことだ」
「少数の犯罪者が、寄せ集めを使って大きな裏組織に見せていた……?」
「ってぇことだな」
聞いた情報を何とか整理して言葉にすると、あっさりと肯定が返ってきた。
してやられたと感心すればいいのか、翻弄されたと怒ればいいのかもわからないけど、少なくとも詐欺師としては一流だね、デルタファミリーのボスは。
そもそもデルタ“ファミリー”って名前だけは比較的最初の方に掴めていたのも策だったのかもね。それで勝手にそれなりの規模の裏組織だと思い込んでしまっていた。
実体は小集団だから探しても見つからないし、取り巻きをどれだけ捕まえても核心的な情報には至れない……と。そうなるとカミーロの方が連れて行った四人だって、何の情報も得られないハズレってことなんだろうね。…………いや、もしかしたらそんなことも承知の上で有望な方を譲られた? 「恩を売っておいて損はない」なんて軽く言っていたけど、全部織り込み済みで……いや、あのうさん臭いカミーロのことは今考えても自分から沼に入りにいくようなものだろうから、一旦置いておこうか。
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