第231話

 僕はラセツを連れてヤマキ一家の拠点を訪れていた。

 普段ならこういう時は大体ライラが同行する。僕の秘書的なポジションだから当然だ。だけど今回は何故かラセツが同行したがったから、断る理由もないということで許可した。

 

 「アルさん! 親父なら中にいます」

 

 この拠点の前にはいつも門番が二人ほど立っているけど、今日はその片方がフランチェスコだった。僕に対して見極めをしていた時は、ルアナと一緒に見張り役みたいなことをしてたこともあったけど、あれはヤマキの護衛という面が強かったのだろう。けど今はただの拠点の見張りで、そこに一応は幹部だったはずのフランチェスコが立っているというのはどういうことだろう?

 

 「フランチェスコ、君が見張りを?」

 

 気になったことは確認しておこうということで、素直に聞いてみる。

 

 「デルタの連中の核心にも迫りつつありますからね! 念のためってやつですよ」

 「そっか」

 

 今日の用事はこの前の成果発表会の時に僕がグスタフと捕まえたジゴロウ――デルタファミリーから学園への内通者――に関してだ。あれはあの後ヤマキ一家に引き渡してあったから、何か情報を聞き出せたかを確認しにきた。

 

 「それほど警戒を強めないといけないほどのことが得られたって訳だね?」

 「ええ……、まあ詳しいことはここじゃ言えないですから、どうぞ中へ」

 

 ここはただの豪邸に見えても裏組織の拠点な訳で、近くの住人だってなんとなく察しているだろう。だから迂闊に近づいてくる一般人なんていないし、この街の裏社会で顔役ともいえる立場にあるヤマキだから衛兵だってそうだ。そして今だって周囲に人影も気配もない。

 ただ、だからといって外であることには違いないから、確かに詳しい話なんてできないだろうね。質問した僕が馬鹿だったよ。

 

 「じゃあ、入らせてもらうよ」

 「よく励むのじゃ」

 「え、ええ」

 

 入るときにラセツも軽く挨拶していたけど、反応からするとフランチェスコは若干怯えている様子だった。別に僕のことを舐めているとかって訳じゃないだろうけど、その人となり――人じゃないけど――を良く知らないからこそ、ラセツのことが不気味に感じられているのかもしれないね。

 

 思えば、ライラやグスタフのことはよくここに来るとき同行してもらっているし、サイラはああいう性格だから裏がないのがすぐにわかる。そうなると、前に一度連れてきただけだし、いかにも心中では色々と含みがありそうな雰囲気のラセツっていうのは、怖く見えるのかな。

 実際のところは考えているのは大体食べ物のことっていう食いしん坊鬼でしかないんだけど……、まあこの裏社会じゃ親しまれるより怖がられる方が都合良いことは多いから、このままでいいか。

 そもそも僕の場合は子供の頃のラセツを知っているから、余計にそう思うってところはあるだろうし。そうなると、人間より遥かに寿命が長くて成長も老化も遅い精霊鬼の子供の頃なんていうのを知っているというのは一番ハードルが高い条件なんだよね。要するに、ラセツの子供の頃を誰かから伝え聞くとかそういうのはほぼありえないから、そうしたいなら僕が積極的に動くしかないんだけど、そんな方向性で親っぽいことをする気なんてこれっぽっちもない、と。

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