荒事の渦中・学園都市抗争編

第230話

 ヴァイシャル学園成果発表会はうまく乗り切ることができた。学園行事の方はまあ、うまくも何も、僕もグスタフも同学年の学生相手に負ける訳もないからなんの問題もなかったんだけど、それ以外の方では中々すれすれの状況だった。

 

 それ以外の方というのはもちろん僕の裏社会での仕事のこと。ヴァイスに浸透しようと企む振興の裏組織デルタファミリーが、街に広めようとしていたある魔法薬に関することだ。

 その魔法薬は精神が高揚するというもので、副作用として依存性が非常に強い。そうした薬が蔓延すると売る側は一時的に儲かる代わりに、地域がじわじわと内から腐って崩壊することになる。

 

 だから裏社会に潜むような組織であっても、自分の縄張りではそうした魔法薬を売るよりもむしろ禁忌とすることが多い。お上が法で禁じるのだって結局は同じような理由な訳だし。

 一方で敵対組織の縄張りを荒らす目的となると話は変わって、有用な手段と化す。初めはバレないようにこっそりと、しかしじわじわと確実にその地域を腐らせていけるし、その過程で儲けもかなり出る。その地に住む人達のその後がどうなっても知ったことじゃないという、裏社会ならではの話ではある。

 

 そんなだから仕掛けられる方としてはすごく嫌な手段を選択されているからこそ、ここらを仕切るヤマキ一家も初めから本腰を入れて対応している。とはいえ、街中を走り回っても捕まえられるのは組織の末端構成員ばかりだった。

 売人やその護衛を何人か尋問しても、デルタファミリーという裏組織がヴァイスの街を狙っているという程度の情報しか得られないなかで、奴らの次の計画として察知できたのがヴァイシャル学園に仕掛けようとしているということと、その為に内通者を用意しているらしいということだった。

 僕にさらっと教えてくれたヤマキだったけど、恐らくその情報に辿り着くためにヤマキやその部下たちがかなりの苦労をしていたはずだ。それを学園のことであったとはいえ、任されたからにはしくじりたくなかった。

 

 そんな心境ではあったんだけど、重ねてだけど本当にすれすれだったよね。そもそも発表会前に見回っていた時点で内通者を特定できていなかったのが、内心では焦っていた。一番相手の尻尾を掴みやすいのは動くであろう発表会当日だと頭ではわかっていても、その日を過ぎて生徒の中に薬を一度ばら撒かれてしまえば有効な対策をとれなくなってしまうからだ。

 そんな状況で焦りもあったから危うく大ポカするかもしれなかったんだけど、僕とグスタフの目というのも捨てたものじゃない。勘違いした形ではあったけど、内通者を見つけていたんだから。

 とはいえ、そこからカミーロの介入があって、あのうさん臭い教員の正体に関する一悶着もあったけど、最終的にはこっちでも内通者の一人を確保することができた。

 

 結果良ければ……となるかどうかは、あの内通者ジゴロウを尋問してどの程度の情報が得られているかによるけど、期待できるんじゃないかと考えている。

 実際に戦った感触としてジゴロウは相当な使い手だったし、それにやっぱり内通者をやらせるようなのはデルタファミリーでもそれなりの地位にある構成員なのではないだろうか。

 ……まあ、希望的観測であることは否定できないんだけど、どっちに転ぶかわからない状況でとりあえず楽天的になるのは悪い事ではないだろうし。

 なんにしても、そろそろ尋問も終えた頃だろうから、ヤマキ一家の拠点まで話を聞きにいけばどうなったかはわかるはずだ。

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