第228話

 「よし、うまくいったね」

 

 戦闘が終了したと判断してグスタフに声を掛ける。

 

 「ああ、しっかりと気絶している」

 

 しばらくジゴロウが動き出さないか警戒していたグスタフは、僕の言葉を受けてその意識が完全にないことを確認すると、少しだけ肩の力を抜いてそう答えてきた。

 

 それでもグスタフの目線は倒れたジゴロウから外されていない。グスタフの慎重で真面目な性格ということもあるんだろうけど、なによりこの内通者がそれだけの強敵だったということだろう。

 確かに、思いのほかすんなりと倒すことはできたんだけど、二対一でしかも奇襲みたいな仕掛け方だったからうまくいったと思っている。あとは武器戦闘は熟練しているけど魔法は使えないということを知っていたのも大きい。

 

 あとはとっさにやってみた闇魔法もうまくいった。あの時ジゴロウはグスタフに対して何かをしようとしていたし、あれだけの実力者の奥の手があったのだとしたら、きっと僕らにとってはろくでもないものだろう。いや、「あったのだとしたら」じゃなくて、あの様子は何かがあったと確信したからこそ必死に反撃したんだけどね。

 僕には攻撃力に優れた魔法体術という手段があるからこそ、魔法そのものの上達をある時期から疎かにしていたかもしれない。それを気付かされた切っ掛けがあのうさん臭いカミーロだというのは癪に障るけど、そこは残念ながら事実だ。

 それに魔法の可能性が広がったことで、これをさらに体術と組み合わせるようなこともできるかもしれない。まだぼんやりと考えているだけに過ぎないけど、搦め手の強力さを体感したからこそ色々と浮かぶこともあるってことだ。

 

 とはいえ、そんな風に色々と考えるのは後でもいいかな。一旦今はまだ途中の仕事をちゃんと進めないといけない。

 

 「いけそう?」

 「ああ、運ぶのは問題ない」

 

 気持ちを切り替えて確認すると、グスタフが意識のないジゴロウを荷物みたいに肩に担ぐ。

 ジゴロウも華奢ではなく、むしろがっしりとしている方なんだけど、大柄なグスタフが担ぐとそれほどでもなく見えてしまう。

 

 「あ、待って。一応これを……」

 

 さすがにこのままはまずいかと、その辺に散乱した資材から適当な布を引っ張り出してジゴロウに巻き付けた。

 グスタフが担いだままだったから適当な形になってしまったけど、とりあえず遠目に見て人だとは思えない感じにはなったから、これでよしとしよう。近くでじっくりとみられたら、どう誤魔化していてもバレるだろうし。

 

 「さっさと外へ出れば大丈夫そうだな」

 

 僕が巻いた布を確認してグスタフがそう口にした。学園の外に出れば、すぐにヤマキ一家と事前に取り決めていた“受け渡し場所”があるから、そこから先は任せてしまえる。

 だから学園内で見つからないようにすれば大丈夫だろう。それに完全に誰にも見られないようにとまで徹底する必要もない。この偽装でも荷物を担いでいるようにしか見えないし、今日は成果発表会で今は各所で片づけを始めている時間帯だ。とにかく近くでじっくりと見られるようなことだけ避ければ、グスタフの言うようにさっさと出てしまえば問題にはならないはず。

 

 「一応、ここを出る前に確認しておくね……解析インダガーレ放出パルティ

 

 この倉庫に入る前にしたのと同じように、出る前にも解析魔法で周囲を探る。とはいえ今度は特定の一人を確認するためじゃなくて、大勢がいるような場所を避けるための探知だから、精密さよりもむしろ大雑把に周囲の気配の分布を把握しようとする。

 

 「……む」

 「どうした? 何か問題があったのか?」

 

 僕がちょっと気付いたことに眉を寄せると、グスタフが少しだけ緊張感を戻す。だけど……これは問題じゃないかな。

 

 「ああ、いや、大丈夫。近くに気配があったけど離れていった」

 

 こっちに近づいてきているようなら、一旦ジゴロウを隠すなりしないといけないけど、離れていっているようだから問題ない。ここは人気がないけど倉庫だから、場合によっては誰かが物を探しに来ると考えると、もたもたとしている訳にもいかないね。

 

 「よし、今なら人目につかずにいけそうだ」

 

 そして広域に気配を探った感じだと、ちょうど誰にも接近せずに外へと出られそうなルートがある。これならすんなりと気絶したジゴロウを運び出して、ヤマキ一家へと引き渡せそうだ。

 

 「なら、行くか」

 「うん、すぐに動こう」

 

 グスタフの確認に頷くと、僕が先導して倉庫を出た。カミーロの背景とか今後の関わり方とかは色々と思う所があるけど、成果発表会に乗じたデルタファミリーの思惑は潰せたし、反撃の糸口もようやく掴めそうだ。

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