第222話

  カミーロと取り引きしたことで、今日この学園でデルタファミリーの企みを止める算段はついたということになる。

 ほぼ巻き込むような形でついでみたいに倒したあの四人はたしかに確保したかったけど、そもそもの僕らの目的はこれ以上デルタファミリーの連中に好き勝手させないことだ。そういう意味で、あいつらと引き換えに残る内通者の情報を得られたのは大きかった。

 

 それにしても……、内通者は一人だと勝手に思い込んでいたけど、まずい勘違いだったよね。ふたを開けてみれば既に捕まえたのが二人、そしてさらにもう一人いるということだ。思い込みで行動するのは僕の悪い癖なんだけど、意識しても治らないから癖なんだよね……。

 

 

 

 しかしカミーロがどこか怪しいとは思っていたけど、それどころじゃなかったなぁ。流れで戦うことになったけど、グスタフと二人がかりで押しきれないなんて。というか、戦闘用でもなさそうな短剣でグスタフと渡り合える時点で普通じゃないし、魔法の使い方も熟達していた。

 それでも最後には僕が横から闇魔法を撃って妨害することでグスタフがとどめの一撃をお見舞いする直前まではいったけど……、あの時が一番悪い予感がしていた。カミーロには焦りが見えなかったし、何より僕の勘がまずいことになりそうだと警鐘を鳴らしていた。

 勘……つまりはそう思ったってだけのことなんだけど、生死をわけるような状況ではそういったものこそが重要になると思っている。言語化できないような小さな感覚の集合や、経験からくる大雑把な予測とか、そういったものが勘であるとするなら、僕の中に在る二人分の人生からくるそれが警告していたということだからだ。

 

 たまたまあのタイミングで目を覚ました内通者教員二人のおかげで、状況は流れることになった。カミーロが内通者ではないと気付いたからグスタフを下がらせたし、カミーロの方もあれで引いてくれた。あのまま戦闘が続いていたらと考えると、背筋に冷たいものを感じるというのが正直なところだ。それでもグスタフであればカミーロの反撃にうまく対処してくれたんじゃないかと思いはするけど……、まあいまさら思考しても仕方のないことかな。

 

 

 

 しかし身近なところに強者というのはいるものだね。僕の中ではヴァイシャル学園は学術的な知識を学ぶ価値はあっても、強くなるためならあまり役に立たないと思っていたところがある。

 演習場とかの設備は便利ではあるけど、戦闘・戦術科で担任を務めるジャックであっても正直勝てる相手だと思っていたからだ。そこを基準にヴァイシャル学園の教員といってもこんなものか……なんて考えていたけど、その思考が甘かったなんて、意外といわざるをえない。

 ゲーム『学園都市ヴァイス』でプレイヤー扮する主人公の前に立ちはだかる強力な敵というのが、ほぼパラディファミリーがらみの裏社会の人間か、魔獣だったということもあるかもしれない。やっぱりどこかゲームのことが頭から抜けきっていなくて、学園の教員を軽く見ていたのかもね。

 まあ、あのカミーロは学園の教員というよりはカッジャーノ家の人間というべきで、どうにもフルト王国の上層部に絡むような話っぽいから、ある意味では学園を軽く見ていたのは間違っていないのかもしれないけど……。

 

 とにかく今はまず、残る内通者の確保が優先か。それでこの成果発表会に乗じた企みは潰せるだろうし、運が良ければいまだに得体の知れないデルタファミリーのことも少しは知れるかもしれない。

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