第220話

 不信感が胸中には渦巻いていながらも、この状況で提案を聞きもせずに蹴るなんていうのは悪手だろう。

 

 「……なんでしょうか?」

 

 という訳で、とりあえずは聞く気があることを示す。

 

 「えぇ、ちょっと思いついたのですが……」

 

 カミーロの方はというと、僕が微妙に警戒を滲ませているのには気付いているだろうに、そんなことは全く表情に出さずに乗ってくる。というか、あくまでも良いことを思いついたっていう体は保つんだね。

 

 「私もまあ……学園内外からの?……指令なんかを受けている以上は成果を上げなくてはいけませんので、これは渡せません」

 

 「これ」という時に、さっき縛り上げた四人へとカミーロは視線をやった。その内容はわかるけど、それより出だしに不自然なくらいにしどろもどろだったのが、引っ掛かった。

 いや、引っ掛かったという程度のことでもない。あからさまだよね、さすがに……。

 何がっていうと、「学園内外からの」って部分だ。さっきからのやり取りで、このカミーロはフルト王国の上層部にも関わるような人物だとはわかっていた。とはいえ、それはカッジャーノ家が持つ役割として全うしている、つまりは学園には潜入・・しているのだと考えていた。

 

 それが内外から……外からの潜入だけでなく内からの指令も受けている、と。要するに学園上層部の公認で潜入している国のスパイってところか? いや、それってスパイじゃなくて出向か、どっちかというと。

 

 まあ、なんであったとしても、カミーロはそういう立場だということをわざわざ教えてくれたってことだろうね。その意図までは読めないけど、少なくとも今は敵対したくないということだろうし、それはこっちも同じだ。

 

 「“これは”……ということは?」

 

 とはいえ、そっちが情報をくれるならこっちも、みたいな単純な話でもないし、そんなつもりはない。だから僕は特に何を匂わせるでもなく、話の続きを促した。

 

 「ええ、学園として外部の良からぬ輩と繋がっていると睨んでいる者が他にもいるのですが、それが捕まえる前に失踪してしまったとしても……まあ、我々としてもどうもしません。既に二人は接触してきた外部の人間共々確保しましたし、そういう者は往々にして厄介事に巻き込まれやすいでしょうから」

 

 なるほど……、つまりはまだ捕まえていない容疑者の情報をくれるから、勝手に捕まえろと。そしてそれをこっちで連れ去ったとしても、既に成果を上げたカミーロはもちろん学園側も大きく問題視はしないぞ、と。

 要するにカミーロとしてはこの件で僕の後ろにいるコレオ家やパラディファミリーと揉めたくはないんじゃないかなぁ。一緒に動いているのはヤマキ一家だし、カミーロが危惧しているようなことには多分ならないだろうけど、それは言わない方がこっちの利益になりそうだから黙っておこう。

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