第219話
四人の不埒者は確かに気絶していた。発動するのを目の前で見たから疑うも何もないんだけれど、カミーロの解析魔法は本物だったということだ。
カミーロはカッジャーノ家の出身だけど、さっきの言い様だとその家はフルト王国の中でも裏の情報まで得られるような立ち位置らしい。あるいはただの情報通って可能性もあるけど、その場合は考えても仕方ないから除外しておこう。
そしてもうひとつ、カミーロは「学園に仇をなす存在を放ってはおけない」と言っていた。つまり、少なくとも今は学園のためという立場ではあるようだ。
「さて……、デルタファミリーが悪質な魔法薬をこの街に広めようとしているということを知って、首を突っ込んだのですよね?」
「そうなりますね」
「なるほど、少しでも情報を得たいと考えたのは理解できますが……」
拘束が済んだということで、カミーロから改めて質問された。認めて頷いた僕の反応を確認するように呟いたところによると、パラディファミリーの関係者である僕が、ここで起こっていることの情報を得ようと試みた、くらいに認識されているようだ。
もしかして、裏社会に片足つっこんだばかりの貴族のお坊ちゃん、くらいに思われているんだろうか。実際のところは縄張りを荒らされることを嫌うヤマキ一家に与する形で、わりとがっつりと抗争に関わっているんだけど……。
「この……内通者は学園で確保しますよね?」
「ええ、もちろん」
中年教員二人に目線を一瞬向けて示しながら聞くと、即座に肯定が返ってきた。まあ、学園の教員に紛れていた裏切り者だから、当然見逃せないよね。裏社会の組織なら情報を搾り取った後で見せしめも兼ねて苛烈な制裁を加えるだろうし、表社会の組織だからといって基本方針は変わらないだろう。
「では、あっちのデルタファミリーの構成員っぽいのは――」
「それももちろん、学園で拘束します」
外から入り込んできた方の二人はこちらで連れていってもいいかと聞こうとしたけど、最後までも言わせてもらえなかった。
向こうの情報を探るためにも、ヤマキ一家の拠点に連れていって尋問したいところなんだけど……。いや、こんな末端ぽいのを調べたところで、またたいしたことない情報しかでてこないか……?
これまでの経緯も思い出しつつ頭を捻る。とはいえ、カミーロというよりはヴァイシャル学園と対立する気がないんだから、こうまではっきり言われてしまえば、引き下がるよりほかはないんだけどね。
「まあ、アル君としてもパラディファミリーの方に何か手土産が欲しいのは理解します」
「はは、いえいえ……」
カミーロの方はというと、僕があくまでもパラディファミリーへのご機嫌取りを画策していると認識しているっぽい? 確かに外から見るとそう見えるのかな?
実際のところ、今回の件にパラディファミリーから何か圧力とかがあるかというと、今のところはない。とはいえ、あの連中のことだからどうせ把握はしていて、ヤマキ一家が対処に失敗したら出張ってきたうえで、何か恩着せがましく圧力をかけてくるんだろうけど。
返答に迷ったから適当に受け答えた僕の言葉だったけど、カミーロはそれをやはり困っているとでも解釈したようだった。
「私の立場だとアル君に恩を売っておいて損はないのですよね……。そうだ!」
コレオ家とパラディファミリーに関することは、裏側とはいえ国の上層部に属することだ。恐らくは同じところに属しているのであろうカミーロにとっても協力の意思はあるということなんだろうけど、「そうだ!」とかいって手を打つ仕草も、その時に細められた目が笑っていないのも、うさん臭さしか感じない。あらかじめ決めておいた台本を読み上げているようにしか感じないというか……。
と、疑う気持ちは強いものの、この状況だと一旦は提案を聞いてみるしかない。話し過ぎてこっちの事情をあまりさらすのも嫌だし、そもそもカミーロには敵対されてもいない。……まあ、こっちから仕掛けた引け目がないという訳でもないし。
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