第217話

 元々、僕は怪しい男女がデルタファミリーの構成員で、それを怪しんだ中年教員二人と首を突っ込んだ僕らを排除しようと内通者のカミーロが近づいてきた。……そういう風に考えていた。

 だからこそ、この人気のない演習場へと場所を移した直後に、こちらから仕掛けて無力化してしまおうとした訳だしね。

 

 ところがどうも実際は事情が違ったらしい。といっても、あの怪しい男女がデルタファミリーの構成員だったぽいというのは変わらないんだけど。

 真実としては中年教員二人組の方が内通者で、カミーロの方は怪しく思って声を掛けただけ……ということらしい。

 そしてそこからさらに話がややこしくなることに、カミーロはただの・・・教員ということではなかったようで、国の上層部にも関わるような背景を持っているようだ。その辺はまだよく掴み切れていないことだけど、コレオ家とパラディファミリーのことまで知っていたということは、ちょっとした事情通とかで済む話ではない。

 

 しかも僕とグスタフが不意打ちで、それも全力の攻撃を仕掛けたのに倒しきれなかった……いや、それどころかあしらわれたという感触すらあった。

 自画自賛するようだけど、僕は学生の範疇をはるかに逸脱して強いし、グスタフだってシェイザの名に恥じない腕前をしている。はっきりいって、大抵の教員だってもし殺し合いすることになったら圧倒できる自信がある。

 そんな僕らが襲い掛かったというのに、カミーロは僕の魔法を防ぎ、グスタフの斬撃をしのいだ。確かに僕もグスタフも全力を出してはいなかったけど、それはおそらく向こうも同じ。基礎的な能力での探り合いのような戦闘で、魔法でも短剣術でもあれだけ動けたカミーロが、万全の装備で全力を出した時、さすがの僕も勝てると言い切ることは難しい。

 

 裏社会のことにも精通する程の立場で、これだけの実力も兼ね備えている。どうして教員なんてやってるのか疑問に思うような人物だよね。……いや、ヴァイシャル学園の教員だからこそ、かも。フルト王国屈指の教育機関であるここには、全国から優秀な子供が集まってきて、将来はそれぞれが色々な場所で要職に就く。だからこそ、そういう所にちょっかいをかけたいと思う様な輩も、それは困るから防ぎたいという勢力も、どちらも人を送り込んでいるのが普通だろう。そんないってみれば清濁を併せのむからこそ、ヴァイシャル学園がヴァイシャル学園たり得るということなのかもしれない。

 

 ……清濁といえば、結局のところ内通者は教員だったんだね。それもそこそこいい歳の。可能性としては経験の浅い子供……つまりは学生が薬に依存させられたうえで内通者に仕立て上げられているものだと予想していたから、教員がそうである可能性は比較的低いと思っていたんだけど、その見立ては間違っていたようだ。

 というか、あの中年教員二人って……あれだよね、サイラと一緒に見回った時にあの子が「怪しい」って指摘していた二人だ。その後に遭遇したカミーロの印象が強かったものだから、気にもしていなかったけど、今にして思えばサイラが最初から冴えていたということらしい。

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