第216話
「「……」」
二つの水魔法を続けて受けた教員二人は仲良く倒れている。意識まで失っているかはここからだとわからないけど、少なくとも動けはしないようだ。
「うおおっ!」
声がして目を向けると、一度は剣を止められたグスタフが再び振り上げて次撃に移ろうとしている。竜巻のように回転する連撃は止められたからさっきほどの勢いはないけど、気迫は十二分にこもっている。
けど、今は一旦攻撃を続けてもらっても困る。
「グスタフ止まって!」
「っ!?」
僕の声を聞いたグスタフは一瞬体をびくりとさせて驚いたようだったけど、すぐにこっちまで飛び退ってくる。そしてカミーロの方も、そんな隙をさらしたグスタフに攻撃をするようなこともなく、短剣は油断なく構えたままでこちらをじっと見ている。
その反応で確信を深めたけど、やっぱりカミーロとは戦う必要なんてなかった……?
「カミーロ……先生」
「はい、なんでしょうか、アル君」
ちょっと恐る恐ると声を掛けると、離れて立つカミーロはその薄笑いの表情のまま応じてくる。細められた目の奥にある不穏な瞳は今は見えないけど、全身からはぴりぴりとした空気を滲ませている。
いや、まあ、たった今まで殺し合いをしていたから当然なんだけどさ。
「そこで気絶した教員の二人が内通者だと……?」
さっき水魔法を放つときにカミーロが口にしていた言葉を確認する。
「ええ、そうです。学園に仇をなす存在を放ってはおけないので見回っていたのです」
質問にはわりとあっさりと答えてくれたけど、僕があえて口にしなかった“何の”内通者かということまではこぼしてくれなかった。まあそんなに迂闊な相手ではない、と。
「それで――」
「ああ、いえ、大丈夫です。そちらの事情はわかっていますので、大体の想像はついています」
「――は?」
もう少し回りくどく話をして探りを入れようとしたところに、意外な言葉を放たれる。事情……って、何をだ?
抱えている秘密が多いものだから、頭に色々な可能性が過ぎってぞっとする。メンテのことが終わった後は転生者の可能性なんて考えもしていなかったけど、もしかしてこいつも……?
「試しているつもりですか? これでも駆け引きには慣れているものですから、無駄ですよ。お察しの通り私はカッジャーノの人間ですから、コレオ家の……いえ、パラディファミリーの事情もそれなりに知っているのですよ。まあ今代は色々とあるようですが……?」
「いや、はは……」
「その歳でとぼけるのが随分とうまいものです。さすが、さすが……」
急に色々と言われたからとりあえず笑って誤魔化してみたけど、なんだか誤解が深まったみたいだ。脅しとか荒事は確かに得意だけど、謀略や交渉術みたいのはそんなになんだけど……自分でいうのもなんだけどさ。
パラディファミリーのことまで言ってくるっていうことは、カッジャーノ家はコレオ家の裏のことまで知っているということか。確かに侯爵という地位の高い貴族家ではあったはずだけど、そのことはフルト王国内でも本当に一部しか知り得ないことだ。ということは、やはりカッジャーノ家は噂とは違って何かある家ということなのか。
「逃げられる前に奴らを拘束するか、完全に動けなくしてしまったほうがいい」
そこにグスタフから唐突に提案があった。確かに、今はまだ倒れているけど、怪しい男女とか真の内通者らしい教員二人組に逃げられでもしたら笑い話にもならない。
そして、何より……、急に情報を投げつけられて混乱気味だから時間を稼ぎたい。
「……で、いいですか?」
「そうですね」
真の意図は隠しつつ、一応余裕ぶって聞いてみると、カミーロはすんなりとのってきた。一旦グスタフのおかげで頭を落ち着かせる時間はとれたみたいだ。
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