第213話

 カミーロは戦闘・戦術科の中でも魔法戦闘専攻の教員だ。だから純粋な魔法使いだと思っていたんだけど、ここまでを見るとそうでもないらしい。というのも、グスタフの一撃を受け止めたあの動き、短剣であれをしのげるのはかなりの技量だ。

 つまりカミーロは魔法がメインで武器戦闘もできる魔法戦士、と考えていいだろう。得物があの短剣しかない時に仕掛けられたのは良かったと考えるべきかもしれないね。

 

 それでもグスタフの押し込みに対しては体勢を僅かに崩してはいた。つけ込むならそこだろう。

 

 「グスタフ!」

 「おうっ!」

 

 呼び掛けると相棒は既に動き始めている。僕みたいに頭であれこれ考えるタイプではないけど、戦闘勘に優れたグスタフも同じことに思い至っていたみたいだ。

 だから僕が名前を呼んだだけで、グスタフは弾かれるように飛び出していった。

 

 「うぉおおおっ」

 

 その勢いは速度に変換され、雄叫びの尾を引いて突撃していく。高く掲げた剣が、敵の頭頂に振り下ろされるのを今か今かと待ち構えているかのようにきらめく。

 

 「ヴェント妨害オスタ

 

 突っ込んでくるグスタフを迎撃するために、カミーロは短剣を持っていない方の左手をあげて風の魔法を発動した。

 あれは……妨害の制御レテラ? ……そうか!

 

 「ぐうううぅ」

 

 放たれた矢のような速さだったグスタフの突進が、目に見えてその勢いを鈍らせていく。妨害の意思を込められた風が不規則に吹き荒れて、その足が進むのを邪魔しているようだ。

 歩容も頼りなくなっているから、こちらからはグスタフの後頭部しか見えないけど視界も塞がれているのかもしれない。

 

 しかもあれはグスタフの突進を邪魔するだけでなく、魔法も妨害するとみていいだろう。つまりここから援護の魔法を真っ直ぐ撃っても、たいした攻撃にはならないということ。

 二体一だっていうのに、たったの一手で僕らをこうも困らせてきた。若く見えるのに老獪なやり口で厄介な相手だ。

 

 とはいえ、困ってしまったと黙って見ている訳にはいかない。それでは何よりも相手の思うつぼだろうし。

 

 「ヴェント放出パルティっ」

 

 僕は殺傷力のない・・・・・・風の塊を前方に向かって放つ。――つまりはグスタフの背中に。

 

 「何を?」

 

 妨害の風が吹き荒れる方向に、しかも苦労して突進を続ける仲間の背に向かって僕が魔法を放ったことに、カミーロは不思議そうに瞬きをした。僕のことをパニック起こして同士討ちするほど馬鹿だとは思っていないだろうけど、とはいえ何をしたかまではわからなかったようだ。

 

 「ぬん!」

 

 僕の風魔法を背で受けたグスタフが気合いのこもった声を漏らす。それは味方に攻撃されて嘆く声……ではもちろんなくて、姿勢を崩さないように全身に力をこめた声だ。つまりグスタフには僕が何をしたかなんて、こっちを見なくてもちゃんとわかっていたということ。

 

 攻撃力を持たずに破裂して吹き荒れる風の塊は、僕が瞬間的な加速によく使う風の魔法だ。それを放出で撃って離れた場所で発動させた。

 

 「ぐうううぅん!」

 「そんな無茶なっ!?」

 

 文字通りに背中を押されたグスタフが、妨害の風で一度は削がれた勢いをにわかに取り戻す。低く太い声で唸りながら急速に迫るその姿に、ついにカミーロも露骨に動揺した姿をさらしていた。

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