第211話

 僕の発言に対して睨みつけてきていた怪しい男女は確実にデルタファミリーの構成員だろうけど、動きの端々から戦闘能力の低さを感じるからおそらくたいした立場じゃないだろう。もちろん、裏組織の幹部が皆強いっていう訳ではないんだけど、戦闘的な意味で弱いとしてもそれなりの警戒感とか雰囲気があるものだ。こいつらはどっちの意味でもそこそこでしかないから、使いっぱしりと判断した。

 

 そうなると、まず抑えるべきはカミーロ内通者か。今こうして警戒されているだけでも、肌の表面にぴりぴりとしたものを感じる。サイラと見回りの時もグスタフと演習場で鍛錬していた時にもずっと感じていた感覚は、今こうして明確に意識することで形を成したように思える。

 つまり、このカミーロは相当に強い。僕の経験の中でいうと、サティやグイドに近いと直感した。既に臨戦態勢に入っているグスタフの意識も、このカミーロにだけ向いているようだ。この場で誰を警戒するべきか、純度の高い武人であるグスタフの嗅覚も僕の直感と一致している。

 

 「お、おい」

 「あぁっ? なんだよ」

 

 中年男性教員が場の空気に耐えかねたように声を掛けると、その先であった怪しい二人組の女の方は荒々しい口調で反応する。

 

 「一旦、落ち着きましょうか」

 

 それを見たカミーロは両手を胸の前に上げてなだめる。もちろんそれだけでこの場の雰囲気が柔らかくなるはずもなく、僕とグスタフ以外の四人の目線と意識はカミーロへと集中した。

 

 奇襲の好機!

 

 「ヴェント!」

 

 今の僕なら一文字発動は相当に早い。殴りかかるその腕が相手に到達する間に魔法を成せるほどだ。

 それによって不意打ちは見事に成功し、暴風をまとった右腕でラリアットみたいにしてまとめて薙ぎ払った怪しい男女は吹き飛び、積まれていた資材を巻き込みながら転がっていった。

 ……ついでに横にいた教員二人も転がって大量の椅子に埋もれたようにみえたけど、不可抗力だ。あるいはコラテラルダメージってやつだ、うん。

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