第210話

 連れてこられたのは僕らが模擬戦をしたような演習場――つまりは学園の中央らへんにある人気のない区域――だった。しかもこの演習場は倉庫代わりに使っているようで、今回の成果発表会で使うのであろう道具や資材ばかりで埋まっている。

 

 そんな物は多くて人のいない建物の中央には、それなりのスペースも空いていて、僕とグスタフ、怪しい男女、教員の中年男女、そしてカミーロはそこで向かい合っていた。

 

 「何か仕掛けてくるとは思っていましたが……」

 

 話を再開する合図のように、カミーロが呆れたような調子で口にする。その雰囲気はまるで僕らが首を突っ込んでくることを予想していたかのようだ。

 とはいえ、さっき僕らを見た時に納得したような様子を見せていたところからすると、それはあくまでも予想や想定であって、何もかもを見通しているはずはない。

 

 「さて、先生方には悪いけど、荒事になりそうなのかな?」

 

 わざととぼけた物言いをしてみる。まあ中年の先生二人に悪いっていうのは本当なんだけど、荒事にはなりそうもなにも避けられるはずもない。ヤマキ一家や僕らからすると縄張りを荒らすデルタファミリーはもう一線を越えているし、デルタファミリーからすれば末端とはいえ構成員を何人もやられている。

 

 だから怪しい男女はその目元を険しくして僕らやカミーロを睨みつけている。こんな状況で平然としている僕とグスタフがただの学生ではないことなんて気付いているだろうし、カミーロに対しては思う所もあるのかもしれない。

 こんなところに連れてきたからには、カミーロは僕とグスタフと、そしてついでに巻き込まれた教員二人を消してしまうという腹積もりなんだろうね。内通者としてはバレたとなるとそれが広まるのを防ごうとするのは当然だろう。一方で侵入してきた連中からすると、事を荒立てて面倒にするなとでも思っているのかもしれない。

 

 

 

 一応、状況を整理しておこう。

 僕はヤマキ一家の関係者として、デルタファミリーが学園で依存性の強い魔法薬を売ろうとすることを防ぎたいし、あわよくばデルタファミリーについての重要情報も掴みたい。

 グスタフは僕に協力して行動している。

 カタギじゃなさそうな怪しい男女は、おそらくデルタファミリーの売人で学園内の内通者に人知れず接触したかった。

 教員の中年男女は、なんとなく怪しい二人組に声を掛けていただけで、何も状況を把握できておらず、今も戸惑いを隠せていない。

 カミーロはどういう経緯かデルタファミリーの内通者になっていた教員で、接触しにきた仲間が別の教員に捕まっていたから保身のために情報を封殺しようとここまで連れてきた。そして僕とグスタフがヤマキ一家と繋がっていることにも薄らと勘づきつつある。

 

 といったところかな。そして、カミーロがこちらの出方を窺うように話している今がちょうどチャンスかもしれない。向こうからすると本当に自分のことがバレてしまったのか。そうだとしてもどの程度までなのか。まずは探りたいのかもしれないけど、その慎重さを逆手にとって不意打ちを仕掛けて動揺しているうちに決めてしまうのが最善だと思える。

 

 「……」

 

 そう考えてこっそりと横に目線をやると、グスタフも揺らぎのない目でこちらを見ていた。考えていることは同じらしいし、グスタフの方はいつでもいけるようだ。

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