第209話
さて決めたはいいものの、何て言って声を掛ければ一番当たり障りがないだろうか。
そんなことを考えつつ近づいていたせいか、あるいはイベント事の雰囲気が感覚を鈍らせていたせいか、どちらかはわからないけど、それに気づいたのは話している四人にかなり近づいてからだった。
「あれ……?」
「……」
僕らのほかにもその四人に向かって歩く人物がいた。僕とグスタフ、そしてその人物の三人が寄ってきているという状況に、四人はさすがに気付いて困惑した顔で周囲を見回している。
「アル君にグスタフ君……ですか。なるほど、君達が……」
普段から細められている目をこちらに向けて値踏みするようなことを言っているその人物は、二組の担任であるカミーロだった。それは明らかに何かに気付き、納得したという様子。おそらく、僕らが裏社会に関わる人間だということを察せられてしまったということだ。
さすがにヤマキ一家との関係まで推察されたとは思えないけど、もし仮にデルタファミリーの関係者であればそこまで思い至ったとしても不思議ではない。そう、もしも、このカミーロが内通者だったとしたら……。
カミーロは貴族であるカッジャーノ家の出身だし、数年前から教員だったということだから、容疑者からは外していたけど、まさか最近になって何かの理由でデルタファミリーに懐柔された……? 僕が知らないだけで、金にだらしないとかそういう性質があったのだろうか。
一瞬で、様々なことが頭を過ぎったけど、状況はそんな僕の考え事を待ってなどくれない。
「っ――」
「場所を変えましょうか?」
四人の中の一人、中年男性教員が不穏な空気を察して何か口を開こうとしていたけど、その機先を制するようにカミーロが提案してきた。その声音はいつも通りの優しく丁寧なものだけど、どこか有無を言わせない迫力も内包している。
僕がサイラを連れて会った時に感じた不穏さ、今感じているのもそれと同じものだ。
四人の方は怪しい男女も、声を掛けた教員の男女も、どちらも戸惑いながらも小さく首を縦に振っている。そして僕とグスタフもここで声を荒げるつもりもないし、まして襲い掛かるようなこともしない。
教員は学園内でこんな日に騒ぎを起こしたくないだけかもしれないけど、怪しい二人組がデルタファミリーの関係者なら人目を避けたくて当然だ。そしてそれはおそらくその仲間であろうカミーロも、そして敵対する立場の僕らも変わらない。
そんな利害の一致の結果として、奇妙な無言の集団はカミーロに先導されてぞろぞろと移動を始めることになった。
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