第208話

 学園内が成果発表会でざわざわとしているおかげで、僕らはすんなりと尾行できていた。僕もグスタフもそういう方向の専門家ではないから、状況によってはバレないようによっぽど距離をとらなきゃいけないところだった。

 まあそもそも、成果発表会だから外部からデルタファミリーも侵入しやすくなっている訳だけど。

 

 それに向こうも裏社会に関わるような人間だとしても、尾行や監視に長けてはいないようだ。もしそうであれば、状況が良くても僕らの拙い尾行なんてとっくにバレて対応されているだろうし。

 

 一応、僕の使える解析のレテラを広範囲放出発動で何度も繰り返してレーダーみたいに使うことはできるけど、こうも人数の多い場所だと自信はない。だからこうして直接目で見て追える状況で助かった。ここはヴァイシャル学園内だから、魔法は魔法で誰に気付かれるかわからないしね。

 

 「……む」

 「誰かに……?」

 

 そうして追っていった先で、怪しい男女は別の男女と話し始める。僕とグスタフは足を止めて次はどこへ行くかを相談でもしている風に装う。

 追っていた怪しい男女の方はそこそこに若いけど、今話している相手の方の男女はどちらも中年だ。そしてその中年男女の方から声を掛けていたように見えた。

 

 「呼び止めた……? ただの偶然か?」

 「いや、あの二人は……」

 

 訝しむグスタフだったけど、僕の方は記憶を探りながら言葉を選ぶ。どうにもあの中年男女には見覚えがある。

 ああっ!

 

 「声を掛けたあの二人は学園の教員だよ。前にサイラと一緒に見回っていた時に見たことがある」

 「そうなのか? だとすると、あちらも怪しいと思って声を掛けたのか」

 

 そう、ちょっと見た目が幼い生徒を熱心に見守っていたあの教員達だ、あれは。しかしそうなるとこれはまずい。僕らと同じようにカタギじゃないと気付いたからこそ声を掛けたのだろうけど、ここで追い出されてしまえば手掛かりが得られなくなってしまう。あの怪しい二人組はまだ泳がせておきたいのに……どうするか……。

 

 「適当に僕らも声を掛けてうやむやにしよう。あの二人組に顔を見られるのはまだ避けたいところだったけど、決定的な動きをみせる前に追い出されても困る」

 「わかった」

 

 いかにもカタギじゃないと当たりをつけて尾行しているけど、あの怪しい二人組がデルタファミリーの関係者だという確信は全く得られていない。学園内で捕まえて拷問するなんてこともできないし、薬を売ろうとするとか内通者と接触するとかそういう行動を見てからじゃないと動くに動けない。

 だから、とりあえずはただの学生として適当に声を掛けてうやむやにしてしまおう。怪しい二人組には警戒されるだろうし、中年教員二人からは心証が悪くなりそうだけど、今はたぶんそれが最善だと思う。

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