第207話

 学生としてのやるべきことをやった僕はグスタフと学園内を移動し、二年の模擬戦や発表展示がされている辺りまでやってきていた。

 生徒や教員の行き来は多少増えたという程度だけど、外部の人間の姿は明らかに増えている。有望な若手がいないかを見に来るなら三年のところになるけど、青田買いするなら二年になる。一年を見るのなんて青田にすらなる前の土地を買いに来るようなものだから、まあそんな人はほとんどいない。

 

 僕の予想が正しいのなら、この辺りでデルタファミリーの連中は何かをしているはずだけど……どうなるだろうね。

 

 「……あれじゃないか?」

 

 と、グスタフがふと口にする。その視線はじっと一方向を向いていて、明確に何かを見定めて話していることがわかる。

 

 「少なくともカタギじゃないね」

 

 その視線の先にいたのは男女二人組で、見たままの率直な感想を呟くと、グスタフからも頷きが返ってくる。

 服装や髪型だけでいうと、やや柄が悪いけど普通に街にいる人の格好だ。おそらく学園生徒の親族ではなさそうだけど、教員の友人とかかもしれないし、見学に来ただけの一般人かもしれない、そんな感じだ。

 実際に教員にはジャックみたいに元冒険者もいることだし、やや荒々しい風体の知り合いが来ていても不思議ではないんだよね。

 

 とはいえその目を見たことで僕は「カタギじゃない」という判断を下していた。目線が鋭いとかそういう単純な話じゃなくて、その視線の置き所――つまりは警戒している場所――がいかにもだったからだ。

 具体的にいうと、あれはいつどこで背中を刺されるかわからないような環境に身を置く人間の視線や所作だ。他人を襲わないし、他人から襲われることもないという環境にある人間ではない。

 まあさっきもいったように教員なんかには色々な種類の人もいるから、一概にそれだけで黒認定もできないんだけど、少なくとも無警戒に流せる存在ではないということだ。

 

 「ちょっとつけてみようか」

 「ああ」

 

 短く小声でそうやりとりすると、僕とグスタフは雑談を交わしながら学園内を歩く生徒二人という風に――実際にそのものなんだけど――それとなく距離をとりつつその男女の後を追い始めたのだった。

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