第206話
「いくか?」
僕の模擬戦も終わったということで、グスタフが声を掛けてくる。一年戦闘・戦術科の模擬戦はこの観衆のほとんどいない演習場で続いていくんだけど、終わったからと出ていこうとする僕らを咎めるような視線はない。別の所でやってる発表なり模擬戦なりを見に行くとしか思われないだろうからね。
本来ならこの後は、我が兄上ことマイク・コレオが二年の政治・経済科で政治専攻として出している発表でも見に行って挨拶するのが貴族の次男っていうものだ。出家しても家との繋がりは持ちたいのが普通だしね。
でもまあ、そんなのはどうでもいい。僕が今グスタフとともに行こうとしているのは、もちろん学園内で暗躍しようとするデルタファミリーを探し出しに、ということだ。
「どこから探る?」
「そうだねぇ……」
グスタフからの質問に、僕は顎に手を当てて少し考える。
今日の成果発表会で最も注目を集めるのは三年の戦闘・戦術科による模擬戦だろう。次点は同じく三年の学術科による発表で、どちらも外部からの注目度が高い。だからそれらの近くはおそらく大丈夫だろう。あまりに人目が多すぎるのは裏社会の人間が嫌う場所のひとつだ。
とはいえ、今僕らが出ていた模擬戦を含めて、一年のところに来るとも思えない。逆に注目度が低すぎるからだ。奴らは学園内で依存性の高い薬を蔓延させようと画策している訳だから、それなりの数に触れられる場じゃないとやっぱり意味がない。
そうなると……。
「二年の辺りでも見に行こう」
僕が一通り考えてから方針を口にすると、グスタフは無言でただ頷いた。判断に信頼を置いてくれているのがわかる動きだからこそ、身が引き締まる思いだね。
「他の連中はどうしている?」
と、歩き出そうとしたところで、グスタフがぽつりと呟いた。
「んっと……、サイラは学園内にいるよ。ライラはヤマキ一家の方で何かあった時のために待機。ラセツは一応街中にいてもらってる」
「そうか」
思い出しながらぽつぽつと伝えると、やはりグスタフはひとつ頷いた。外部の人間もやってくるイベント中とはいえ、やっぱり学園内で動きやすいのは僕とグスタフだから、ここは僕らがメインで動く方いい、という判断での布陣だ。
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