第205話

 風魔法の風弾がレンツァの防御壁を突き破り、レンツァに直撃したことで審判役の教員から僕の勝利が宣言された。

 

 本来ならそれで致命傷となるような直撃をとれれば、模擬戦では勝利となる。それはこの成果発表会での模擬戦でも同じだ。

 

 「完敗だった。君はすごいな」

 「いや、僕の方も学ぶところの多い模擬戦だったよ」

 

 終わったということで下がろうとした僕に、レンツァが声を掛けてきたから、僕もそう返しておく。とはいえ、別にお世辞をいったということでもなく、素直な感想だ。

 

 「はは……」

 

 実際に言われたレンツァの方はお世辞と受け取ったようで、複雑な笑顔を残して踵を返した。

 まあ、確かに、試合内容は僕が彼を圧倒するものだったし、実力差もかなりあるのを感じた。技術面では拮抗していたグスタフの模擬戦と違って、魔法使いとしての基礎的な実力に差があったという感じだ。

 だから、序盤は後出しの対応でことごとく防げたし、そこからの反撃一発でケリがついた。

 

 その一方でレンツァの戦い方に未熟さを感じたのは、自分の攻撃を防がれて動揺していた時くらいだ。あの露骨な隙はさすがに悪い意味で学生らしかったし、だからこそ僕は見逃さなかった。

 だけど、そこに至るまでの流れでは内心で舌を巻いていた。最初から様子見を決めていたこちらに対して向こうも様子見だったから、いきなりお見合い状態になったけど、そこから切り替えての攻撃は気迫も乗っていて中々のものだった。あの思い切りの良さは実戦的で驚かされた。

 それにその初撃で使っていた水魔法だ。衛兵とかがよく使うものだけど、弾状に圧縮せずに放つ水は質量の暴力で相手を制圧する。避けるのも防ぐのも本来は難しい魔法なんだけど、あっさりと相殺できたのはやはり魔法の実力差が大きかったから。

 

 さらにはその見事な初撃は囮で、次撃を最初から用意していたのも良かった。とはいえ滞留で発動するには射程距離が短かったようで、その移動をしていたせいで僕も察知していた。そしてやはり魔法の実力差のせいで、風の一文字であっさりと防ぐこともできた。

 

 全体的に魔法の威力、発動射程、制御と全ての要素で僕が圧倒しているといえるほどの差があったものだから、ひと捻りしたといった感じになったけど、戦術面で見れば中々の実力者だったと本音で思っている。

 彼自身の鍛錬もそうだけど、優秀な部下を従えて指揮官的な立ち位置に収まれば、かなりの力を発揮しそうな気はするね。

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