第202話

 一度は距離をとり直したグスタフとソブリオだけど、今はまた接近して木製の武器で打ち合っている。

 剣と槍がぶつかるたびに、がいんっ!とか、ぼがぁん!みたいな爆発的な激突音がするものだから、見ているこっちの耳が痛くなってくるほどだ。

 もちろん前世だったらあんな勢いでぶつけ合っていれば武器の方がとっくに壊れているはず。魔力というものが体力に加えて存在し、強力な剣士が鉄の剣で岩をも切り裂くこの世界ならではの光景ともいえる。

 そしてその技術を高度にして、難しい調整をして初めて実現するのが僕の魔法体術で、魔法使いとしても戦士としてもどちらでも高いレベルにあるからこそ可能だと自慢しておく。

 

 しかし拮抗している……。ソブリオという二組の生徒のことは、ほとんど知らなかったけど、技術的には実際にあのグスタフに迫るものがある。

 まわりでざわざわとしている生徒達から聞こえてくる噂話からすると、どこか田舎の道場で腕を磨いたということらしいけど、世の中というのは広いものだね。

 

 と、なんとも呑気に観戦している僕だけど、実際に勝ち負けでいうとグスタフの心配は全くしていない。同じくらいの速さで動いているのも、武器同士が噛み合った時にどちらが押し勝つことがないのも、武器の手捌きが同じくらい巧みに見えるのも、どれも確かなことだ。

 だけど、それはゲームでいうところのステータスの話をしているに過ぎない。もちろんそれは大事なことで、同じ土俵に立つための最低条件ではあるのだけど、勝敗というのは別の次元にあることだ。

 

 実際、真剣勝負であればより顕著なんだろうけど、模擬戦だって最後にものをいうのはそういう数字には表せないような要素だ。

 

 「おおうっ!」

 「はぁっ、はぁっ、……っ!」

 

 雄々しく叫びながら木剣を叩きつけるグスタフに、声は発さずに黙々と槍を振り回すソブリオ。それは変わらないけど、段々とソブリオは息を切らし始めていた。

 恐らくスタミナという意味でも身体能力に大きな差はなさそうだけど、実戦を数々潜り抜けてきたグスタフと、道場で鍛錬を積んできたというソブリオでは、一振りにこもる気迫が違う。つまりそれは殺気をこめられるかどうかということなんだけど、目の前の模擬戦では、グスタフのそれは受ける相手の体力を激しく削るのに対して、ソブリオのそれは腕を多少疲れさせるだけのようだ。

 まあ、サイラみたいに全くといっていいほどに殺気を込めずに致命的な攻撃を繰り出されるのも、軌道が読みづらくてあれはあれで脅威なんだけどね。

 

 ともかく、流れは傾いたということだ。

 

 「ふん!」

 

 そしてひと際力のこもった剣をグスタフが叩きつけると、槍はソブリオの手から離れて床を転がっていった。

 

 「ぁ……、参り、ました」

 

 ソブリオが潔く負けを認めてうなだれると、審判役を務めていた教員からグスタフの勝利が宣言される。それと同時に多くはない見学者から歓声が上がったけど、当のグスタフは表情を明るくはしていない。

 別に不満もないけど、得るものもなかったという感じだろうか、あれは。今回の模擬戦のルール的に武器戦闘なら手にした武器を落とした時点で負けではあるんだけど、戦士として戦意まで喪失するなよ、とでも思っていそうだ。実際にソブリオは弾かれた木槍を目で追った後に項垂れていた。グスタフとしては、素手でも構え直すなり、なりふり構わず距離をとろうとするなり、そういう実戦的な素振りの片りんくらいは見せて欲しいということなんだろうね。

 

 僕にいわせれば、学内行事での模擬戦で“手応え”を求めるなよ……といったところだけど。

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