第201話
「へぇ……」
木製の訓練用武器で打ち合いを始めた二人を見て、僕は思わずため息をこぼした。もちろん感嘆のためにだ。
「ふんっ!」
太く低い声を響かせながらグスタフが剣を振り下ろすと――
「……っ!」
――相手は声は出さずに槍の穂先で弧を描くように振るって、それを弾く。
あの二組の男子生徒はソブリオっていったっけ?
あんまり聞いたことがなかったのも納得できる印象の薄さだ。外見も地味なんだけど、なんというか……槍を持っての身のこなしも全てが普通というか、凄そうにみえない。なのに、今実際に目の前では、あのグスタフと渡り合っている。
ソブリオは入学試験で二組に振り分けられたのが信じられない。単純に強いということもそうだけど、あの安定感ならどんな状況でも結果をだしそうだけど……。
まあ学園の評価制度はともかくとして、二組の担任をしているカミーロの人を見る目は確かなようだ。だからこそ、今グスタフは白熱した模擬戦を披露している訳だしね。
「っ!」
やはり雄叫びを上げたりはせず、わずかに息を吐き出しながら、ソブリオがその丸く作られた木製の穂先を突き出す。その鋭さは、風切り音が離れて見ている僕にも聞こえてくることから十分に感じ取れる。
「おおぉ!」
対してグスタフは大きな声とともに豪快な動作でくるりと一回転するようにして木剣を振るう。
がいんっ、という木と木がぶつかったとは思えない激しい音が演習場に響いた。
そして突きを弾かれたソブリオは下がり、グスタフも追うことはせずに構え直して体勢を整えている。
一度攻撃態勢に入ると、その強烈な攻撃が次の攻撃の勢いを強め、それがさらに……と続いていくことでシェイザの剣術は止めることのできない暴風のような激しさで対戦相手を呑み込んでしまう。だから受けに回ると一方的にやられてしまうんだけど、なら攻めれば崩せるのかというと、それほど甘くもない。今見たように防御だって薄くはないからだ。
だからシェイザ家の剣士とやりあうためには、あの激しい攻撃を防ぐ防御能力と、甘くない防御を崩すだけの攻撃能力、そして何よりもそれらを的確に判断して切り替える思考力が必要となる。要は総合的な戦闘能力が問われるということだ。
それでいくと、入学試験の時のようにグスタフが連続攻撃に入れていないという時点で、あのソブリオが総合的に優れた戦士であるということは証明されている。
……うん、こうなってくると二組で模擬戦トップといわれている僕の対戦相手レンツァっていうのも、俄然興味がわいてくる。ひと仕事するまえの雑用くらいに正直考えていたこの模擬戦だけど、ちょっと楽しくなってきたし、それはグスタフも同じだとあの横顔をみれば一目瞭然だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます