第200話

 学内にいくつもある体育館みたいな演習場のうちの一つで、グスタフは二組の生徒と相対していた。

 この試合と次に続く僕の試合をつつがなく終わらせて、学内を見回りにいかないと。

 

 そういえば、ゲーム『学園都市ヴァイス』では主人公が一年時の発表会でイベントがあった。もちろん序盤ということもあってそんなに大きな事件が起きる訳でもないんだけど、僕が知る限りでは二つだ。

 一つはもちろん主人公自身に起きる出来事で、学術科なら発表、戦闘・戦術科なら模擬戦で『アル・コレオ』に絡まれるというやつだ。そして政治・経済科だとキャラは変わるけど内容は同じでクラスメイトの有名商会子弟からやっぱり絡まれるというものだ。

 二つ目は三年の模擬戦を見に行った場合で、キサラギが圧倒的な魔法で活躍する場面を目にする、というもの。仲間になってから思考AI的な理由で今一つ役に立たないことのがっかり感へと繋がる最たるイベントでもある。

 まあどちらもキャラクターの掘り下げであって、戦闘・戦術科を選んだ主人公的にいえば模擬戦を一戦させられるというだけの印象しかない。

 

 主人公……か。

 いなくなった今にして思えば、プロタゴかニスタ――あるいはその両方――がそうだったんじゃないかなぁ……とか思わなくもないんだけど、まあどうでもいいか。

 どうでもいいとはいいつつも、なら今日の模擬戦では僕は誰にも絡まれずに済むかなとか、プロタゴのあの鬱陶しい絡み方を思い出したりもしているんだから、ゲームへの未練でもあるのかもしれない。

 まあメンテのあの惨めな最後――手を下したのは僕達だけど――を見た以上は、僕はあいつと違って前世に縋ってゲーム知識に縛られるようなことなく過ごしていかなくちゃいけないしね。

 

 そういうことでいうと、始まろうとしているグスタフの戦いっていうのはいつも参考になる。正確にはシェイザの剣術が、というべきなのかもしれないけど。

 シェイザ男爵家が代々受け継いでいる剣術は有名で、模倣したものや参考にしたものが巷には溢れている。だけど鬼とまで称されるほどに怖れられるのは常にシェイザの一族に連なる者だけ。……事実かどうかはともかく、そう噂されるのはやっぱり技術だけでなく精神面での修行にも力を入れることに由来するような気がする。

 

 「うおおぉっ!」

 

 開始の宣言にほぼ重ねるようなタイミングでグスタフが咆哮を放った。木製の槍を構えた二組の生徒がそれだけの相手であると向かい合っただけで察したということであると同時に、模擬戦であっても手抜きはないという宣言でもある。

 この“シェイザの絶叫”というのは自身を奮い立たせるバフ技であるだけでなく、気持ちを切り替えるスイッチとしても優秀に思える。つまりは、どういう状況であってもこれをしたということは全力戦闘だと自分自身に言い聞かせるということだ。

 

 要するに自己暗示の一種であると思っているんだけど、それを象徴的なものとして受け継ぐということが、“鬼の一族”の戦闘哲学を示しているともいえる。

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