第199話
ヴァイシャル学園成果発表会の当日……その日は大変なことが――――そんな急に起こる訳でもなく、わりと普通に進行していた。
戦闘・戦術科の一年生は学内でも中心の方にある演習場での模擬戦披露だ。中心の方だからそれだけ注目度も高い、なんてことではもちろんなくて、学園敷地内に入ってから遠い上に道のりも入り組んでいる。
つまり学内で起こっていることにも鈍くならざるを得ないのだけど、僕とグスタフの出番は朝一番に決まっていたから、とりあえず真面目に素直に参加してから発表会を見て回るという体で調査すればいいということになった。
ちょっと楽観的過ぎると思われるかもしれないけど、そもそもの話として、僕らは「ここでデルタファミリーの企みを絶対に阻止しなければならない!」みたいにシビアに捉えている訳でもない。
もちろん学園の職員であったり、善良な生徒達からすれば何としてでも水際で防ぎたい案件だろう。特にキサラギあたりに情報が渡っていれば血眼になって対処していたんじゃないだろうか。……まあ発表会での模擬戦には出るみたいだし、結局は生徒会でも街が最近は不穏だという程度の情報しか得ていない様子だけどね。
ヤマキ一家としてもデルタファミリーの台頭も、街や学園が薬で荒れることも受け入れがたいようだから、いつまでも好きにさせるつもりはないだろうけど、今はまだ躍起になるほどではないようだし、僕らもそんな感じだ。
結局のところ、ヴァイスの裏社会で生きる存在としての僕は、デルタファミリーが尻尾を出すと思われるこの発表会とその直前の期間で、何とか対処できたら後が楽そうだよね、というくらいのつもりだ。
まあその直前の期間の方はというと、既に空振りに終わってしまったんだけど。
ヤマキから直々に伝えられた情報だから内通者を用意してここで大きく仕掛けようとしているということはほぼ間違いないだろうし、この一日で手を抜くつもりっていうのは全くないんだけどね。
もう間もなく始まるグスタフの試合は相手も武器をメインに使う戦士系であるという話だから、きっと見応えのある内容になるだろう。とはいえ、学生が相手で同じ土俵ならグスタフが苦戦するなんて想像できない。
僕の方は魔法使いが相手だ。武器使いには武器使い、魔法使いには魔法使いで、学生らしく力を出し切って欲しいという方針で決めた組み合わせなのだろうね。そしてその二組の魔法使いは戦闘能力そのものよりも巧みな戦術が評判らしいけど、僕としては変なことはせずに真正面から魔法戦をしかけるつもりだ。正直にいうと、魔法体術で一気呵成に攻めれば押し切れるであろうことはわかってるけど、自分の手札を無駄に晒す気はないし、何というか発表会の趣旨――組み合わせの意図も――からすればそうすべきだろうしね。
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