第203話

 グスタフが演習場の端、僕がいる方へと戻ってくる。まばらな拍手は反応が鈍い訳ではなくて、単純に観衆が少ないからだ。

 まあ、一年の模擬戦なんてこのくらいだよね。外部からの見学者はもちろん、学生だってせっかく見るなら三年の模擬戦や発表を見に行く。それでも青田買い的な感覚で見に来る人もいるようだけど、それだって大半は学術科の論文とか芸術作品とか、あるいは試作の魔法道具とかそういうのを気にするものだ。

 

 要するに注目度の低い中での、内輪の交流会に近いノリではあるんだけど、優等生を意識している僕としてはサボる訳にもいかないんだよね。

 

 なんてことを考えている間に、次の準備が整ったようで、僕が呼ばれている。この演習場での模擬戦では、どうやら戦士と魔法使い同士での試合が交互に組まれているようだ。審判役の教員も交互に入れ替わって休めるということかな。

 まあ一年の戦闘・戦術科の中で都合よく人数がわかれているということもないだろうから、後半は割り当てが違ってきそうだけど、少なくとも僕やグスタフやそれに近い実力者は同じ系統同士で技を競い合うように意図しているみたいだね。

 

 僕は裏社会で日々荒事に揉まれているということで、正直学内でのイベントなんて舐めていた。それに同学年の学生がどれほどの実力かなんていうのは、把握すらしていない。

 だけど実際に目にしたグスタフの試合は、勝ち負けでいえば十回やっても十回ともグスタフが勝つだろうけど、その実力まで離れていたとは思わない。

 つまり、これから僕が対戦する魔法使い系の生徒というのも、ぬるい相手ではないんだろう。そう考えると、今の僕がどの程度かっていうのを知るのにちょうどいい機会だったかもしれない。

 

 「…………」

 

 進み出た僕に合わせるように向かい側から出てきたのは、中肉中背かやや細身というくらいの体格をした男子生徒。落ち着いた色を宿した瞳が印象的で、精神的なゆらぎ――動揺や緊張――がほぼ見られないのは大したものだ。一方でその体捌きは戦士系の生徒と比べるとそれほどでもないことが、この短い距離を歩いてくる姿だけでもわかる。よく体を動かす一般人といった程度だ。

 つまり、典型的な魔法使い。まあ、僕と同じく無手で出てきた時点でそんなことはわかるんだけど……。

 とはいえ、魔法使いっていっても色々とある。キサラギみたいに高火力を連発して圧倒するスタイルがあれば、ライラみたいに技巧と戦術で相手を封じるようなスタイルもある。僕は本質的には相手に合わせて対応する器用なタイプだから、まずは出方をうかがって見極めてから、という感じでいこうかな。

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