第197話

 ヤマキからデルタファミリーが学園を次の標的にしているという情報を得た僕らは、内通者を炙り出すべく行動した。だけど結局のところ、核心には至れないまま時間が過ぎることとなってしまった。

 

 ライラに色々と調べてもらったことを参考にしつつサイラに嗅ぎまわってもらったりもしたけど、あれも言ってしまえば空振りだった。カミーロの反応というか雰囲気が何とも気になってはいるんだけど、あれから特に何か動きがあるという訳でもなかったし……。

 

 あぁ、でもライラに調査くらいはしてもらった。さすがに怪しかったからね。まずカミーロは貴族の出身で間違いなかった。思い出してみると僕が聞いたときにも否定はしなかったからね。どうやらカッジャーノ侯爵家の人間らしい。僕が知る限りではカッジャーノ家はただ地位が高いだけと認識されている侯爵家で、代々なんとも凡庸な人間を排出し続けるという評判を耳にしたことがある。実際に話したカミーロがそれほど凡庸にも見えないし、そんな家が侯爵の地位を脅かされずに維持していることから、噂は所詮噂だと思っているけどね。

 

 まあ貴族社会のあれこれは今はいい。重要な情報は出家しているとはいえそうした背景の人間で、しかもヴァイシャル学園の教員になったのも数年は前らしいということだ。

 それらをあわせて考えると、つい最近台頭してきたデルタファミリーの内通者だとは思えない。何か怪しいのは確かではあるんだけど、一旦容疑者からは外さざるをえなかった。

 

 そしてそうなるともう、何も取っ掛かりがない。街の方ではヤマキ一家がちょくちょくとデルタファミリーの構成員を捕まえたりしているんだけど、相変わらず末端ばかりで情報には繋がらないし。

 

 そしてさっきの話に戻るんだけど、時間だけが過ぎてしまった。逆にいうと、これまでのところは平和な時が過ぎている。ヤマキはあの情報に自信を持っているみたいだから、勘違いだったという可能性は低いし、そこを疑って楽観的にいった結果で最悪の被害を出す方が笑えない。だから対応の手を抜くことはありえない。

 依存性の強い魔法薬による被害を防ぐために奔走している……なんて、まるで正義の味方みたいに聞こえるけど、ヤマキや僕らみたいな存在からすると本当に看過できない。

 金を稼ぎつつ言いなりにできる手駒を増やし、都合の悪い相手は廃人にまで追い込める。変な言い方だけど、既に裏社会側にそれなりの秩序を築けているヴァイスのような街において、新興の裏組織が勢力を伸ばすのにこれほど都合のいい“武器”もほかにない。

 それで自分達が第一の勢力になった後で余計に苦労するだけでしかない手段なんだけど、される方からすると本当に厄介極まりない。

 

 とはいえ、泣き言ばかりもいっていられないね。ここまで僕らに尻尾を掴ませず、大きな動きも見せてこなかったデルタファミリーだけど、次の標的がヴァイシャル学園だというなら成果発表会で何かあるというのは間違いない。

 ……さて、ライラやサイラの協力で得られた情報でも、確認しなおしておこうかな。

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