第195話

 なんかちょっと不安になったりもしつつ……、僕はサイラと一緒に学園内をうろつき続けていた。

 

 今日は別に休日という訳ではなく、放課後に歩いているからそれなりに行き交う生徒や教員は多い。そしてヴァイシャル学園というのは巨大な施設であるから、それを維持するための職員というのもそれなりにいる。

 

 「あの人とかはどうかな……?」

 「あのおじさんってば、別に普通なの」

 

 やけに目つきの鋭い男がホウキを手にして中庭を歩いていたから示して見たけど、サイラの返答はあっさりとしたものだった。

 僕から見るとあの目は庭の落ち葉とかじゃなくて殺しのターゲットを探しているものだし、手にしたホウキまで仕込み刀か何かじゃないかと思えてすらくる。

 

 「あっ」

 

 と、その鋭い目つきの男が急に歩調を速めたから、僕は思わず小さく声に出した。その行く先には男子生徒の背中がある。おそらく先輩で、見覚えのない顔ではあるけど、思わず助けに近寄ろうとしかけて、距離があり過ぎることを思い出して踏みとどまる。

 

 「――って、あぁ、落とし物を渡しただけか」

 「だから言っているのよ?」

 

 僕が独りでヤキモキとしていた視界の中、目つきの鋭い男は拾い上げた小さな布――ハンカチか何か?――を男子生徒に声を掛けて渡している。渡された生徒も一瞬驚いた後は感謝している様子だ。

 

 そしてそんな僕を見るサイラの目は温度を数度下げたようだった。まあ、聞かれて問題ないと答えたのに、それを全く信用しないような行動をとったのだから仕方がない。

 

 「ごめん、サイラの言ったとおりだったね」

 「サイラってば、何か企んでいる人は見ればわかるの!」

 

 こっちが悪いということで素直に謝ると、サイラからは胸を張ってそんな答えが返ってきた。ライラから聞いたこの子の育ちや、僕が介入した時の状況を考えると、中々に反応に困るというかハードな言葉だけど、実際にその勘の良さを頼りにして連れていることは事実だ。

 

 という訳で、妙に目つきの鋭い職員の男は置いておいて、僕はサイラと再び学園内を歩いていく。

 しかしいくらも移動しない内に、また足を止める。さっきの中庭もまだ十分に見えているくらいの距離でしかない。

 

 「どうした?」

 

 だから僕はそう確認した。もしかしたら、やっぱりさっきの男に何か思う所でもあったのかという意図が若干あったりもする。

 けど、そうではなかったらしい。

 僕がちらちらと気にしている後方――中庭の方――ではなくて、サイラは進んでいく先の前方に目を向けている。

 

 「んん? 気のせいかもしれないけど……、あの人ってば何か……あるの」

 

 珍しくちょっと歯切れの悪いサイラが示したのは、僕も知る一人の男性教員。今日も複数の女子生徒にからかわれているのか慕われているのか微妙な絡まれ方をしている、カミーロの姿だった。

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