第194話
拠点でライラを前に唸っていた次の日、僕は学園内でサイラと一緒に居た。貴族だし使用人を連れ歩いても不思議に思われることなどない……、というのはあくまでも一般論であって僕の場合は普段はあまりしない。
報告を聞いたり指示したりで会うことはしょっちゅうあるけど、僕を含めて仲間達はそれぞれに忙しいから、ぞろぞろと歩くことがそもそもあまりない。
まあラセツなんかは難しい仕事はあまり任せないから、街で食べ歩きをしていることも多いらしいけどね。
さて、それならサイラはどうなのか、ということになる。ちょっと実年齢のわりに幼いというか、難しい思考を得意とはしない性分のサイラだから、実際にライラに頼むような繊細な調査とか交渉みたいなことは頼まない。とはいえ、だから頼むことはないなんてことにはならない。
拠点や寮の部屋を維持するために生活用品の買い出しとかは常に必要だし、普通の学生としての用事の手伝いを頼んだりすることもある。裏社会的な――血が流れるような――ことをサイラに頼む頻度というのはこの街に来てからは減っている訳だけど、それでもそうして仕事自体はよく頼んでいる。
で、それなら今サイラを連れているのはどうしてか、という話に戻ってくる。
「ん~? サイラってば頑張って見てるの、でもわかんないの!」
「そっか……。じゃあ、向こうの方にも行ってみよう」
ということだった。
……。
…………。
………………ん? わからないって? いや、まあ見た通りだよ。今は学園内にいる人を生徒や教員問わずにサイラに“見て”もらっている。
そしてもちろん、それはサイラに学園の見学をさせている訳ではないし、外見の品評みたいなことでもない。
「あ、あの人ってば、ちょっと怪しい感じがするかも」
廊下の窓から外を指差したサイラが、そう報告してくる。サイラの細い指が差す先には見回りの中年男性教員――今は時期的にも状況的にも普段より見回りが多い――がいて、さらにその非常に真剣で真面目な視線の先では少し幼い外見をした女子生徒が運動しやすい服装で学園内をランニングしている。
「あぁ……うん、あれはまあ、良くはないけど…………いいんだよ、うん」
そう言って先を促す。
サイラには野生の勘みたいなものがある。僕の魔法によるものや、グスタフの鍛えた武術的直感、そしてライラの理論的思考のどれとも違う。強いて言うなら、ラセツが持つ魔獣特有の“鼻の良さ”に近い感覚。
まあ、今みたいにちょっと的外れなことをいうのも、たまにはご愛敬ってやつだ。
「あの人も怪しいの!」
「…………」
サイラが今度は中年女性教員を指差した。そしてその先にはちょっと幼い外見をした男子生徒が――いや、うん、大丈夫か? この学園……。
ご愛敬、そう愛敬なんだよね。
なんて、ちょっと肩の力が抜けるようなことはありつつも、こうまで手掛かりが掴めていない状況だと、サイラの勘に頼るのも悪くない手のはずだ……うん、きっと。
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