第193話
「う~ん……」
徐々にヴァイシャル学園での成果発表会も近づいてきたある日、僕は拠点で唸っていた。理由はそんな風にしたくもなるくらいに成果がないからだ。
デルタファミリー……その構成員はちょくちょくと捕まるし、そこから得られる情報で奴らが依存性の強い魔法薬をばらまくことで、資金を稼ぎつつ影響力を増そうとしていることはわかっている。
だけどそこから先、デルタファミリーの主要メンバーや幹部についてとか、魔法薬の入手経路あるいは製造方法なんかについてはまるで掴めていない。向こうがそれだけ優秀……という面もあるにはあるんだけど、規模が絶妙なことが原因となっている。
というのも、大きな組織であれば相手取るのは厄介だけどそれだけ尻尾も掴みやすい。一方で小さな組織なら、何人か捕まえればすぐに核心的な情報まで辿り着ける。ところが今回みたいに絶妙な規模の場合、簡単に姿を捉えられるほど大きくはないし、末端が詳しいことを把握できるほど小さくもない。
厄介でやりにくい相手だなぁ……なんて、もう何回同じことを考えただろうか。いっそ無視したい気持ちも湧いてくるけど……、奴らはヴァイシャル学園にも手を伸ばそうとしている以上は、どの道いずれはぶつかることになる。そうなってから、色々と取り返しがつかなくなってから対処しても失うものが多くなるかもしれないから、やっぱり今なんとかするしかない。
「報告に行ってきました。ルアナさんとも情報交換を少ししましたが、向こうでも苦労しているようです」
「ご苦労様……。そっか、あっちも同じような状況か……」
ヤマキ一家に報告と情報交換に行っていたライラが戻ってきたけど、状況は予想通りに進捗なしだったらしい。組織力のあるヤマキ一家は僕ら以上にデルタファミリーの末端構成員を捕まえて尋問もしているはずだけど、得られる情報は大して変わらなかったらしい。
まあ元より街中の方はヤマキ一家の方が慣れているし影響力も段違いに大きい。以降も地道な
「内通者……ねぇ」
「手掛かりが中々掴めませんね」
僕が再び唸ると、ライラも難しい表情をする。学園内のことは僕らの担当すべきことだ。
僕らだって別に何もせずに頭を悩ませてきただけじゃない。最近新しく入った職員とか、素行の特に悪い生徒とか、ライラにも動いてもらってリストアップはしている。元から僕は貴族家の人間ということもあって、メイド姿の――というか実際に本物の使用人である――ライラが学園に出入りしたり、僕と話したりしていても不審がられたりはしないからね。
本人や親族に大きな借金のある人なんかも調べたりはしているけど、そもそもそういう弱みのある人を脅して内通者に仕立て上げているパターンではないと予想はしているんだよね。
何せ僕やヤマキがこれほど苦労させられているデルタファミリーだ。嫌々の協力者なんて情報が漏れやすい手段を講じているとは思えない。
しかしそうなると、どう見当をつけたものやら……。と、繰り返し見過ぎてくたびれてきている“怪しい人物リスト”を手にして、僕は何度目かの唸り声をだしたのだった。
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