第192話
私はカミーロカ……あ、いえカミーロという名で、ヴァイシャル学園で教員をしています。魔法戦闘専攻の所属ですが、一年の戦闘・戦術科二組も担当しており、責任ある立場に満足感を覚えながら日々仕事に勤しんでいます。
学園の新入生――もう入学からそれなりに経ちますが――は今年も粒ぞろいです。私が受け持っている一戦二でいうと、ソブリオ君の槍術は堅実な強さで老獪さも垣間見える見事なものですし、レンツァ君はその戦術眼で実戦能力は新入生でも随一と言われています。
もうすぐ開催される学園成果発表会も楽しみです。ソブリオ君やレンツァ君が模擬戦をする相手である一組の生徒はどちらも大変な強敵ですが、だからこそ担任教員としては見応えがあるというものです。
学生が休日の日であっても、教員は各々の専攻に関する研究などのために出勤していることは多いですし、それ以外にも雑事というのはあるものです。たとえばこうして学園内を見回るのもそのひとつ。
今向かっているのは少し不便な位置ということもあって、人気のない演習場なのですが、今日は見回りにも力が入ります。というのも、手元にある資料によると、この時間に予約をしていた生徒の中には気になる名前もあったからです。
そう、例の一組の二人です。建物の外から近づいている今でも、その気迫が感じられるほどなのですから、学生としては規格外です。……いえ、学生として、などというレベルではありませんね、ただ演習場で鍛錬しているだけなのに壁越しに感じるものがあるなど常識外れもいい所です。
これでは王家や大貴族直属の騎士団でも団長やそれに近い実力……あるいは、裏社会に潜む実力者とも伍するほどです。
学園の教員には研究畑の人間も多いですから、彼らのことをただ妙に強い子供くらいに捉えている者も多いようですが、実戦を少しでも知る……それこそ元冒険者の一戦一担任などは関わり方に苦慮している様子すらあります。
その気持ちはよくわかります。常識外に強い者をその目で見たことがあり、そして自身もそうした方向性でそれなりに努力を積み重ねてきたからこそ、あの年齢であれほどの気を放つなどどれほどの修羅場を潜ってきたのか想像もつかないのですから。
「さすが我が学園の生徒達、休みの日なのに感心ですね」
だからこそ、のんきな口調でいつも通りを装いながらも、扉を開いた私の手には汗が滲みもします。
いえ、もちろん学生が励む姿に感心しているというのは紛れもない本音ではあるのですが。
「おや、これはアル君にグスタフ君ではないですか。模擬戦ですか?」
資料にあった通り、そして外から感じられた通りに、一組の二人ことアル・コレオ君とグスタフ・シェイザ君が中には立っていました。
向かい合って少し息を切らしていたことから、模擬戦形式で訓練をしていた様子です。
せっかくだからこの二人の戦いを近くでみたい……そういう下心もあっての確認でしたが――
「ああ、はい。だけど今ちょうど終えたところです」
――すげなくあしらわれてしまいました。ちょうど体も暖まってきたばかりといった雰囲気のグスタフ君を見れば、「ちょうど終えたところ」が事実ではないのはわかるのですが、当の本人からそう言われてしまえばそれ以上に何も言えません。
二組で担任する生徒のために偵察させてくれなんて頼めませんし、…………それ以上の意図や本心を万が一にも悟られる訳にはいかないのですから。
「では、怪我には気を付けてくださいね」
「はい」
なので、教員と生徒らしいやり取りを交わしてあっさりとその場を離れました。気になる存在を確認しておくことも確かに重要な仕事の内とはいえるのですが……、今はそれより優先度の高い案件も抱えています。
教員以外の仕事がちょっと忙しい時期ということもありますから、それとは別のところで些細であっても揉め事を起こせません。それに単純に、あのアル君のことはちょっと気に入っているので嫌われたくありませんから。
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