第191話

 「さすが我が学園の生徒達、休みの日なのに感心ですね」

 

 そんなことを言いながら演習場へと入ってきたのは教員のカミーロだった。確か一戦二の担任なんだっけ?

 口を開いて言葉通りに感心しているという表情。だけどこの人の感情は表面的というか、何ともその奥が読みづらい人だ。常に細められている様な目をした顔の造形がそう思わせるだけかもしれないけど。

 

 「おや、これはアル君にグスタフ君ではないですか。模擬戦ですか?」

 

 僕は魔法使いだしグスタフは剣士だ。その二人が向かい合って立っていれば、素振りや魔法の練習ではなくて、実戦形式で模擬戦をしていたというのはわかるだろう。

 だから見たまま当たり前のことを聞かれただけなんだけど……。

 

 「ああ、はい。だけど今ちょうど終えたところです」

 「……? …………」

 

 隣に寄ってきたグスタフは不思議そうに瞬きを繰り返したけど、すぐに無表情へと戻る。

 別にいいんだけど……、ただなんとなく途中だと答えてそのままカミーロに見学されるような流れは避けてしまった。

 

 警戒するようなことをしたのは、カミーロの顔がうさん臭いから……というだけではなくて、やっぱりその行動もあってのことだ。

 さっき僕とグスタフは入ってくる前から気配に気づいた。それはカミーロの関心がこの建物ではなくて、その中にいる僕らへと向いていたからこそだ。なのに入ってきた時にカミーロは「おや」だなんて言って知りもしなかった風に振舞った。

 小さな嘘、あるいはごまかし。それは特に意味なんてないようなことかもしれないけど、気付いてしまったからには警戒くらいはする。

 

 「では、怪我には気を付けてくださいね」

 「はい」

 

 最後にそれだけいうと、カミーロは僕らから離れていく。そして、演習場内にいた他の生徒に声を掛けたり、助言を求められて答えたりもしている。

 どうみても普通の教員……いや、むしろ生徒に慕われる良い教員だ。

 

 「何か疑っていることでもあるのか?」

 

 距離ができたことで、さっき一瞬だけ不思議そうにしたグスタフが疑問を口にする。

 

 「うぅん、直感で怪しいなって」

 「顔がか?」

 

 素直に感じていることを言葉にすると、グスタフは身も蓋もないことを言ってきた。それもう悪口……。

 

 思わず周囲をきょろきょろと見回して――気配で近くに誰もいないのはわかっているのに――確認して、聞かれていなかったことをほっとするように胸に手を当てた。

 少しおどけるような態度をとった僕だけど、グスタフの方はというと至って真顔だ。

 

 「デルタファミリーの動きもあるし、神経質になってたかもしれないね」

 「それも仕方がない。相手は悪質な魔法薬をこそこそと売り広めるような卑劣な輩だ」

 

 グスタフの発言はいかにもシェイザの人間らしい。勢力を拡げたいなら戦えということなんだろう。合法非合法を問題にしている訳ではなくて、直接的に戦うことを徹底的に避けるようなデルタファミリーのやり口が気に入らないのだろうね。

 

 「まあ、いいや。手合わせはこの辺にしておこう」

 「そうだな」

 

 興が削がれた……なんていう気はないけど、今から再開する気にもなれないからそう言うと、グスタフの方も同じ気分だったようだ。

 その後は僕は体術の簡単な練習や屋内でもできる程度に魔法の確認、グスタフは一心に木剣で素振りをして、しばらくしてから帰ったのだった。カミーロはというと別の場所の見回りもあるようで、長居をすることもなく姿を消していた。

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