第190話

 強化制御はなしで、しかも相手の動きにあわせてとっさに出したような魔法は威力もそれなりだ。だから――

 

 「ふん、ぬっ!」

 

 ――グスタフなら強引に突破してくることも予想済みだ。一応はこの状況での滞留魔法っていうのは迂回させたりすることが狙いではあるんだけどね……。

 

 「ブイオっ」

 

 グスタフの驚くべき身体能力と頑丈さとはいえ、予想していたから対処は準備している。一文字で素早く放った魔法によって、小竜巻を突き抜けたグスタフの目元を闇が覆った。

 

 「くっ」

 

 これにはさすがにグスタフも足を止める。何のダメージもない魔法だけど、それはつまり闇魔法には触れることができないということ。いなして逸らすことも、力ずくに弾くこともできないただの闇だからこそ、この魔法は世間的には評価が低いし僕は有用だと思っている。

 

 「よし、仕切り直しだ」

 「むう……」

 

 とはいえ、グスタフのような戦士も魔力を常に体に巡らせている。だからこその人間離れした身体能力な訳だけど、それは体の皮膚に触れるくらいの位置までなら影響を及ぼす。

 つまり、闇魔法での視界妨害みたいなものにしても、グスタフくらいの使い手が対象だと、効果が切れて消えるのもわりと早いということだ。

 

 距離をとったところで、グスタフの視界は戻り、結局開始した時と同じような位置に戻って仕切り直しとなった。ここまでのところでは、僕が消費した魔力よりも、グスタフが削り取られた体力の方が多いだろう。つまり一応は有利に進められているということだ。

 

 だからこそ、ここからはとにかく大量に魔法を放って圧倒するような戦い方も――

 

 「あれ……?」

 「む」

 

 ――僕とグスタフが気付くのはほぼ同時だった。緊張感のある戦いの最中とはいっても、これは模擬戦だ。それなりに余裕というか、周囲に気を配るくらいはしている。

 だからこそ、まだ演習場の外から近づいてきていて、でも既に僕らへと向いている関心に気付くことができた。……解析のレテラの副次効果でレーダーみたいに周囲状況を把握できる僕はともかく、武人の勘みたいなものでそれに近いことをするグスタフは規格外だなぁ。

 

 そんなことを思いつつ肩の力を抜くと、少し離れて向かい合っていたグスタフも木剣を下ろした。一旦模擬戦は中断かな。

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