第189話
また別に日に、休日だけど僕はグスタフとヴァイシャル学園の中にいた。理由はまあ単純に演習場を使うためだ。
時期が時期だから予約が難しいくらいには混んでいるんだけど、何故か学園内の細かい事情まで詳しいライラがうまく予約してくれた。
実際に今体育館くらいの広さの室内演習場では、僕ら以外には数組が組手や素振りをしている程度ですいている。間隔も十分にあけられているから、魔法も気にせず使えそうだ。
「よし、そろそろいいかな?」
準備を運動もそこそこに、僕はグスタフへと声を掛ける。
「ああ、いつでもこい」
木剣を軽く振って感触を確かめながらグスタフはそう答えた。体調もいいみたいで、“軽く”で振っているだけでも中々の風切り音がしている。
「さて……じゃあ、
ある程度の距離をとってから魔力を集中し、十分な威力を込めた岩弾をまっすぐに撃ち放った。
「おおぉ……うらあっ!」
絶叫まではいかないけど、少し唸ってからグスタフは高速大質量の岩弾を木剣で迎撃し、打ち砕いた。弾くとか逸らすならともかく、あんな模擬武器で打ち勝ってしまうところがさすがだ。
「うおおおぉ!」
そしてすかさずグスタフは前進を開始、こちらに向かって距離を詰めてくる。“鬼の一族”の剣は、相手に恐怖を与える剣。体を斬る前に心を折る剣だ。
「よっ、とっ、
ステップでさがりながら前方に小さな竜巻を設置して足止めを試みる。グスタフに気圧されたから……ではなくて、距離をとるのが魔法使いとしての定石だからだ。
距離を十分に確保して、弾を撃つ。詰めてこられるようなら、間に滞留制御の魔法を設置してそれを阻む。そして離れたまた弾を撃つ。防ぐのでも避けるのでも相手は体力を消耗する訳だから、それでいずれは倒せる。
……というのが、魔法使いの基本的な戦い方だ。
基本的、なんていうと実戦的ではない机上の戦法みたいに思われるかもしれないけど、これが実際に強いからこその基本だ。実戦的という話でいうと、それが実行できないような閉所での戦闘や、距離を詰められてしまってからの対処にこそ、魔法使いの真価が問われるということならいわれる。
なら、殴る蹴るを駆使して、魔法をまとうなんてことまでする僕がどうして今さらこんなことをしているかというと……、まさに今さら基本が疎かになっていないか気になったから。せっかくだから今度の発表会での模擬戦もこの方向性でいこうと思っている。
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