第187話

 「き、来てるって……聞いたから……その……アル君、が……」

 

 入ってきた扉も開いたまま、口調も安定せずたどたどしくて、なんというか困っているような雰囲気だ。

 まあ予想通りに、内心の奥の方に僕への苦手意識みたいなものが染み付いてしまっているんだろうね。その一方で、理性としては僕と仲間達に助けられたということも、メンテに利用されているままではきっと想像を絶するほどひどい目にあっていたであろうことも、理解している、と。そんなところかな……?

 

 「うん……なるほど」

 

 僕は視線を巡らせて、ヤマキが座っているソファの隣に立つユーカを頭からつま先まで観察する。

 右腕を失くしたユーカだけど、左手首に取り付けていた三本爪がなくなっているからか、随分と雰囲気が普通っぽく戻った気もする。まあ、あの狂気性は洗脳によるものだったんだけどさ。

 とはいえ、それでも“ヴァイシャル学園にいたユーカ”とは別人みたいだ。こうなる経緯の大部分を担ったのがゲーム『学園都市ヴァイス』のファンっぽかったメンテだっていうんだから皮肉なことだね。

 

 「無事に過ごせてるみたいだね、良かったよ」

 「あ……はい……うん」

 

 どうにも僕への接し方に迷いというか不安定さのあるユーカだけど、無事で良かったはまあ本音だ。ヤマキは義理人情を重んじる昔気質な人物だからこの境遇のユーカにひどいことはしないだろうし、ルアナもいるからそれなりに配慮もされていることだろう。

 実際のところがどうだなんて知らないけど、親のところには帰れないって言ったのは本人だし、上等な居所ってところだろう。

 

 とはいえ、この子が厄介になっているのは裏組織で、関わっている僕やヤマキは裏社会の人間だ。経緯からして仕方がなかったとしても、ここにいる以上はいずれはこっちの仕事にも関わらざるを得なくなるだろうね。

 

 「無事……うん……無事……へへ」

 

 僕がいった言葉を繰り返して小さくにへらと笑うユーカの表情は学園で見た快活なものとは程遠い陰のあるものだ。

 それを見て、ふと思い出した。洗脳されていたとはいっても、あの時の通り魔として暴れまわっていたユーカ……。

 

 案外、まあ、そういうのも向いているのかもしれないね、この子は。

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