第186話
言い方に腹が立つというのは置いておいて、ヤマキが手に入れてきた情報はかなり有用なものだ。
ヴァイシャル学園を相手に送り込まれる内通者なんて、相当な手練れで組織内でも地位がある存在だろうから、そいつを捕まえればかなりの情報が期待できる。もしそうでなくても、デルタファミリーが学園で薬を蔓延させようとする計画を取っ掛かりのところで潰すことができるから、それならそれでもいいしね。
「じゃあ、さっそく――」
そういって、次にどうするかを考えながら席を立とうとしたけど、ヤマキは先ほどまでとは違った雰囲気でにやりと笑うと手をこちらに向けてきた。
「まあ、待て。ちょっとくらい時間を割いてもいいじゃねぇか」
はっきりしないヤマキの言葉に対して「何に?」と聞き返すよりも前に、わかっていますとばかりに何も聞かずにルアナが部屋を出る。
「顔くらいは見せていきな。せっかく来たんだ」
ヤマキはさらに言葉を重ねてくる。そしてここにきて、ようやく僕も何を言っているのかがわかってきた。
「連れてきました」
出ていったばかりのルアナがすぐに部屋へと戻ってきた。元からそのつもりですぐ近くに待機させていたんだろうね。
そしてその待機させていた人物のために、ルアナは戻ってきた時に扉を開けたままにしている。つまりすぐに続いて入って来るにはためらいがあったようだ。
「どうした? 照れるこたぁねぇだろ」
どこか微笑ましいものを見るような様子でヤマキは目を細めて、誰もいない開いたままの入り口に視線を向けている。
ルアナは「……」と無言で立ち、もう仕事は果たしたという雰囲気だから、手助けをする気はまったくないらしい。
一方の僕はというと、ちょっとだけ微妙な気分だ。というのも、ヤマキが思っているようなそんな微笑ましいものじゃなくて、ためらっている理由は単純にびびっているんじゃないかなぁ……なんて、そんな予想が何度も燃え上がる火の記憶と一緒に浮かんでくる。
「……ぁの、その……、お久しぶり、です」
そうしてしばらくしてからおずおずと入室してきたのは、やはり元クラスメイトことユーカだった。あの事件の時とは見違えるくらいに綺麗な服装をしているし、さっきの反応からしても、どうやらヤマキにはそれなりに受け入れられていたようだ。
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