第185話

 “裏についた”という言葉が、自分で思考しておいて引っ掛かった。そもそもデルタファミリーは社会の裏に巣食う存在だ。そのさらに裏とはなんだ……と考えると、裏の裏は表なんて単純な話じゃないことはすぐに気付く。

 つまり裏の裏というのは、裏社会のさらに奥――深淵みたいな場所のことだ。僕らみたいな裏社会の人間ですら関わることを尻込みするような連中がいる、ね。

 

 ただ現時点では勘ぐっているという状況で、これは僕の予想に過ぎない。ただの心配事をヤマキに相談する訳にもいかないから、とりあえずは現実的な問題点をいくつか意見交換していく。

 

 「情報が足りないっていうのが、問題なんだよね」

 「それは問題以前のことだがな」

 

 僕の呟きにヤマキはすげなく指摘する。

 しばらく前から僕らもヤマキ一家もデルタファミリーが薬を売り捌いているという噂を追っているけど、捕まるのはどれも末端の売人ばっかりだ。生け捕りにして締め上げたところで、薬の製造についてとか、流通を仕切っている人間についてとか、そういう重要な情報には全く辿り着けない。

 

 手応えの感じられない状況に思わず唸る僕だったけど、向かいのルアナは平然としたすまし顔だし、ヤマキもよく見ると僕の反応を楽しむような雰囲気がある。

 

 「……何か掴んだってこと?」

 「へへへ」

 

 思わずぶすっとしてしまい、それがどうやらヤマキを喜ばせてしまったらしい。いつも生意気な態度のガキが困っている所に、今回は上から教えられるっていうのが痛快だっていう思考が態度に出ている。

 

 …………とか、僕が卑屈に考えて苛ついていることも含めて見透かしてるんだろうなっていうのが、また余計に苛々するよね。

 

 そんな僕の態度をたっぷりと楽しんだ後で、ようやくヤマキは口を開く。

 

 「儂らの方で手に入れたとっておきの情報なんだがな、デルタファミリーの奴らはヴァイシャル学園を次の狩場と見定めたらしいんだわ」

 

 焦らされてから聞かされたのがそれだった。

 

 「学園の方でもそれとなく察してはいるようだよ」

 

 だからその程度のことだったら把握している、ということを自身の報告の甘さは棚に上げて嫌味っぽく返してやる。

 

 「ちっちっ……それだけじゃあ、ねぇんだよ」

 

 待ってましたとばかりに片頬を吊り上げたヤマキの凶悪な顔が、とんでもなく腹立たしい。僕の態度ってそんなに恨みを買うほど生意気でしたかね?

 とはいえ、“とっておきの情報”は気になるから、精神的に大人な僕は無言で顎をしゃくって先を促す。

 

 「既に学園内に誰かを送り込んでいるらしい。内通者ってやつだな」

 「それは……」

 

 確かにそんなのが学園にいるなら、次は学生を狙おうってことにもなるだろう。何せ薬っていうのは一度蔓延させてしまえば、後は被害者の方から求めにきてくれる。それに学園には金持ちの親を持つ学生も多いときている。あるいは新たな構成員を探そうとしているって線も……。

 

 「……調べてみるよ」

 「あぁ、頼んだぜ。そっちはアルの領分だろ?」

 

 あ、そうか、この状況では有用な情報だけど、ことが学園だっていうなら僕に頼むに決まっているじゃないか。それをわかっててさっきはからかってきやがったなこのゴリラオヤジ……。

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