第184話
カミーロの後は誰に引き留められることもなく学園を出た僕は、グスタフとは別れてヤマキ一家の拠点へと向かう。
グスタフは武器の整備をするために、どこだかの鍛冶屋へいくと言っていた。グスタフが一人でどこかへ行く時って、大抵武器か鍛錬に関することを言っている気がする。
特に何が起こる事もなくすぐにヤマキ一家が拠点としている豪邸に辿り着いた僕は、門番に立っていた若い構成員がこちらの顔を見るなり、応接室まで通されていた。
初めて来た時みたいに挑発する意味も意図もないからと、今回は扉に近い側のソファに座っていた僕に、門番とは別の若いのがお茶を出しに来てくれた。その時には特に表情にも態度にも表れているものがなかったけど、もしかして上座とか下座とか気にしているのは僕とヤマキだけなんだろうか。
そんなことをつらつらと考えながらお茶を楽しんで時間を潰していると、少し経ったところでヤマキがルアナだけを連れて部屋へと入ってきた。
「すまねぇな、待たせて」
「ご苦労様です、相談役」
初めて会った頃に比べると随分と気安い態度になったヤマキは対面のソファに腰かけ、相変わらず何を考えているかわかりづらい丁寧な態度のルアナはその後ろに背筋を伸ばして立つ。
部屋の奥側へと移動するヤマキが一瞬だけ微妙に困った様な表情になったのを確認できたから、僕としては満足だよ。なんか変なことをしているなと自覚もあっただけに、せめて困惑ぐらいはしてくれないとただのピエロになってしまう。いや、何を考えているんだ僕は……?
「まあ、なんだ。そういう難しい顔をしたくなる気持ちは儂にもわかる」
向かいに座るヤマキが頭頂部の禿げている部分を一撫でしてそう言ってきた。何やら僕の考え事は表情に出ていたらしい。
「薬は一度広まってしまうと厄介極まりないことになるからね」
ということで、とりあえず真面目なことを考えていましたよという体でのっかっておく。内心がばれたらさすがに怒られそうだし。
「さて、デルタファミリーのことだが――」
僕の言葉に重々しく頷いてから、ヤマキは神妙な口調で話し始めた。
僕らがしばらく前から追っているデルタファミリーと名乗る裏組織のことだ。どうやら以前からヴァイスに存在はしていたらしいけど、いってみればはみ出し者の小集団でしかなかったらしく、どこの誰も注目なんてしていなかった。
それが最近になって勢力を伸ばし、依存性の高い魔法薬の売買にまで手を出し始めたというのだから、一帯の裏を仕切ってきたヤマキからすると頭の痛い話だ。
求心力のあるリーダーが出てきて勢いづいたというところなのだろうけど、それだけでもないと僕らは睨んでいる。台頭が急速過ぎるし、何よりその薬の存在だ。その種類が何であれ、魔法薬は魔法薬師にしか作れない。許可とか制度とかそういう話じゃなくて、簡単な物じゃないからだ。
魔法薬師といえばヴァイシャル学園では学術科の魔法薬学専攻がまず浮かぶ。そこできちんと学んだ卒業生は、大貴族や国のお抱えとなる者も少なくない。
あるいは市井の魔法薬師に弟子入りして学ぶということもある。そうした者は最新の技術に疎い一方で、昔から愛用されてきた薬の希少なレシピを受け継いでいる場合もあり、一概に学園で学んだ者の下位存在という訳でもない。
そしてどちらの場合でも共通していえるのは、魔法薬師と呼べるだけの技術を身につければ、大抵喰うには困らない程度に稼げるということだ。それこそそこらで摘んできた薬草で二日酔いの薬でも調合して、早朝の大通りで売り歩けば、それだけでそこそこ儲かるくらいだ。
そんな魔法薬師に違法な薬物をわざわざ調合させる、それも大量に、というのはそこらのチンピラにできることではない。何か裏についたと勘ぐるのも当然というものだ。
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