第183話

 キサラギが薬のことを気にしていたのは当然だろうけど、学園の方は僕にはなんともできない。生徒会入りも断ったことだしね。

 

 「じゃあ行こうか」

 「ああ」

 

 グスタフに声を掛けて歩き出す。キサラギに止められる前に歩いていたのは学園の外、というかヤマキ一家の拠点に向かおうとしていたからだ。

 学園の方では何もできないけど、街の方で薬が蔓延するのはヤマキ一家としては見過ごせない。だから追っている最中のその件について情報交換をするためだ。

 

 と、もうすぐ学園の敷地からも出るというところで、再び僕らは足を止められることとなった。ただし今度は知っている相手に声を掛けられたわけじゃない。

 

 「やあ、君たちは一年戦闘・戦術科のアル君とグスタフ君ですね」

 「はい、そうです…………先生?」

 

 思わず疑問形で応じてしまったのは、三十歳ほどに見える声を掛けてきた人物が知らない顔だったからだ。年齢からして生徒ではないし、教員以外の職員とも雰囲気が違ったから、たぶんそうだろうで返事をしたのだった。

 

 「あ、これは失礼。私はカミーロといって、戦闘・戦術科の魔法戦闘専攻を担当する教員です。君たちにとっては一戦二の担任と言った方がわかりやすいかもしれませんね」

 「あぁ、そうだったのですね。これは失礼しました」

 「……」

 

 隣で無言のまま小さく頭を下げたグスタフも知らなかった様子。だけどまさか隣のクラスの担任だったとは……。

 改めてその姿をよく見てみる。ぱっと見は中肉中背で、立ち姿からよく訓練しているようではあるけど、体自体はそれほど鍛え上げられている訳でもなく、確かに魔法戦闘専攻というのも頷ける。薄黄色のほどほどの長さに切り揃えられた髪は特徴のないものだけど、その下にある顔はよく整っていて優しげだから女子生徒に人気がありそう。とはいえ、常に細められた目の奥にある瞳は見えづらく、何を考えているかわかりづらい――有り体にいえばうさん臭い――雰囲気だ。

 

 そんな風に考えてしまったけど、実際は中々に鷹揚な人物であるようで、顔を知りもしなかった僕らに気を悪くしたような様子は微塵もみえない。

 

 「引き留めて悪かったですね。最近は街の方でも良くない噂を聞きますので、知らない人に声を掛けられても相手にしてはいけませんよ」

 「あ、はい、わかりました」

 

 それだけいうと、カミーロ教員は僕らから離れていった。学園を出る生徒に対してのただの注意喚起だったようだ。

 今も後から来た女子生徒三人組に声を掛けて、「怪しい人ってカミーロ先生みたいな?」とか「相変わらずうさん臭いってぇ~」とかきゃいきゃいと騒がれて困ったという顔をしている。

 やっぱり人気がある――遊ばれているだけかもしれないけど――人ではあったようで、だから声掛け役に抜擢されたのかもしれないね。

 

 「学園でも予兆は察している?」

 「そのようだな」

 

 とはいえ僕とグスタフにとっては、注意の内容の方が見過ごせない。若者にまで広がりだすと厄介なことにもなりかねないし、何より僕の行動圏内が荒らされるのは不快だ。

 ヤマキともよく話し合って、想定より早めに動いた方が良いのかもしれないね。

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