第179話

 「もうすぐ発表会かぁ……」

 「まあ、私らはまだ一年生だし」

 

 そんな会話が教室内でふと聞こえてきた。

 そうか、そういう行事もあったな……。

 

 発表会は正式にはヴァイシャル学園成果発表会といって、文字通りにヴァイシャル学園の学生が日頃の成果を発表する場で、我らが戦闘・戦術科は非常に単純に模擬戦闘を披露する。

 とはいえ話しているクラスメイトの言った通り、一年である僕らは教員に割り当てられた相手と一試合するだけ。集団戦闘をする二年や、トーナメント形式で比較的真剣に戦う三年に比べると注目度も低い。

 注目が低いからなんだという真面目な意見もありそうだけど……、せっかく発表会を見に訪れる外部の人間からのスカウトが目当てという側面も考えれば、注目度の低さは熱意の低さに直結してもおかしくはないことだ。

 

 「ユーカ君がいたら活躍したのかなぁ……」

 「お母さんみたいになるんだって、頑張ってたもんね」

 

 とある事件に巻き込まれ……というか犯人として暗躍した結果、ユーカは学園からは行方不明のままいなくなることとなった。学園の規約上、また保護者が退学手続きもしていないようだから、現状で学籍はまだあるようだけど、もう戻っては来ないことを僕は知っている。

 ユーカの面倒を密かに見ているのは僕なんだから、当然だ。

 

 といっても、直接手元に置くことはしていない。親元にしても学園にしても、元の生活には戻りたがらなかったから、僕の手下として裏社会の一員になってもらうのはありといえばありだったんだけど……。

 そもそも本人がなんかふわっとしていてその意志がはっきりしなかったし、僕としても特に欲しい人材とも思わなかったから。

 ユーカは確かに一連の事件で血を流して痛みを経験した訳だけど、それらは全て彼女自身とメンテの間で完結することだ。いや、腕を失くした原因は結局話さないから、それの犯人もあるのか。

 まあ、どっちにしても、僕や仲間達のためではない。僕がいう血と痛みは単に過酷な経験を指す訳じゃなくて、仲間や目的のためにそれを厭わない精神性のことだ。だからユーカはそうじゃない。

 

 とはいえ、さすがにクラスメイトのあの姿を見て何も感じないほど僕は薄情じゃない……つもり、ということで身の置き先の世話だけは焼いておいた。

 それで今ユーカはヤマキ一家に身を置いている。通り魔事件では縄張りを荒らされて怒りもしていたヤマキ達だけど、僕がユーカの経験したことを憶測を多分に交えつつ情感たっぷりに説明したところ、快く受け入れ先となってくれた、という訳だ。

 

 あぁ、ちなみにプロタゴとニスタについてはよく知らない。逃げた……というか逃がした後は特に追い掛けも探しもしていないし。後ろにいたメンテを消した今となってはどうでもいいから気にしていない。

 

 「ニスタ君達もいなくなっちゃうし……」

 「私達のクラスってなんか呪われてるよね」

 

 話好きのクラスメイト達は気にしているようだけど、噂話に名前を聞くことも徐々に減ってきているし、このまま真実と一緒に裏社会の闇に埋もれていくんだろうね。

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