深く静かに・学園侵入編

第178話

 僕はこの世界では幼いながらに評判の良くない貴族子弟アル・コレオであると、そしてそれは前世で遊んだゲーム『学園都市ヴァイス』に登場した悪役貴族であると、十歳の時に気付いた。

 それはつまり、死亡フラグという名の死刑宣告を受けた瞬間だった。

 

 だからそれを回避するために、力をつけて、仲間を集め、学園では優等生として振る舞いもしてきた。

 そうして全てがうまくいっていると一時は思っていたけど、ドン・パラディことサティとの邂逅でそれは思い込みだったと知らされた。僕の力はまだ裏社会の帝王には及ばず、ゲームとして知っていた知識はこの現実の預言書足りえなかった。

 

 改めてより強くなることへの決意を固めて、偶然もあってさらなる仲間も得たけど、それと並行してサティから指示されたパラディファミリーでの仕事には素直に従った。

 パラディファミリーが本拠を置くコレオ領の中心都市コルレオンからは離れたこのヴァイスで、ヤマキ一家の相談役として行動することだ。

 まああくまでもヤマキ一家ではなくて、パラディファミリーの相談役、なんだけども上部組織での役割だからヤマキ一家としてもそう扱わざるを得ないことには違いない。

 

 だからこそ、実際に最初の頃はヤマキやあそこの幹部からの態度というのもそれなりにぞんざいだったんだけど……、最近は意外とそうでもなくなっている。色々な意味での力を示してみせたということもあるだろうし、僕がパラディファミリーからの出向だということを笠に着なかったからかもしれない。

 ああいう昔気質な感じの男は、そういうところを評価する……んじゃないかという気がするし。

 

 まあヤマキ一家からそれなりに遇されているというのは気持ちの問題じゃなくて、実際のことだ。最近も追っている件に関して、特に条件をつけられたりすることもなくルアナを貸し出されたりもした。礼儀正しい態度をいつも崩さないルアナは何を考えているのかわかりにくい存在だけど、ヤマキ一家の幹部であることは事実だ。

 大事な腹心をぽんと貸し与えるのは、監視していると知らしめて圧力をかける時か、信頼していると示す時くらいで、今回は後者だと素直に解釈しておいて大丈夫だろう。

 

 そのルアナはライラとはどうにも相性が悪そうな気もしているんだけど……、やっぱり優秀であることは間違いなかった。その“最近追っている件”でも、首尾よく手掛かりを確保してくれていた。僕の方でも押さえた奴から聞き出せたし、見過ごせないその連中の名前くらいはすでに確認できた。

 そいつらは、デルタファミリーと名乗ってこの街に薬をばら撒いているらしい。

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