第175話

 「まったく、あなた達は……簡単に殺し過ぎです」

 

 ルアナさんがほんの小さく嘆息しながら、苦言を口にします。

 

 「あれはそれなりに強かった。敵の士気を挫くためにやったまでだ」

 

 グスタフ君の態度は揺るぎなく、僕と同じ十五歳の学生とはとても思えなくなってしまいました。

 

 「逃がさないよう確実を期したまでです」

 

 思えばこのライラさんの鋭い雰囲気というは、初めて見た瞬間から服装に反してとてもメイドには見えないと思っていたのですが、その正体は冷酷な魔法使いでした。

 

 「――サイラってばちゃんと加減してどけたから、殺してないのよ?」

 

 そして僕の方をちらりと見てそう言うサイラさんは、敵を殺したことについては論点として認識すらしていない様子です。……そういえば、このサイラさんのことも、初めは攻撃的な目が怖いかも、なんて思っていたような気がします。状況がどんどん殺伐としていく中で、現実逃避して勝手な思い込みに縋っていたんですね、僕は。

 

 それにしても、何でこんなことになってしまっているのでしょうか?

 いえ、もちろん僕が自分で首を突っ込んだということは自覚しています。だけど思わないじゃないですか、こんなことになるなんて……。

 今日も学園に行って、自習で魔法道具を試作して、それを学園の有名人に褒められたりして……。あの時にはグスタフ君のこともこんな目で見る時が来るとは思いもしませんでした。

 

 普通の学生として普通に過ごしてきた僕が、あれよという間にこんな世界の裏側に入り込んでしまうなんて、悪い夢でもみているようです。

 そしてそんな非現実的な状況は、今も前を歩く背中に知っている学生のものが混じっているというほんの少しの現実との繋がりで、余計にその怖ろしさを増しているようにも思えます。

 

 ……前を歩く。歩く? ああ、いつの間にか、移動を再開しているようでした。考えに沈んで、無意識についていっていました。

 今さら逃げ出そうとしたら、僕もあの炎の檻で灰にされるのでしょうか? それとも訳もわからないうちにあの肉塊に……? うっ……、思い出してしまって吐き気がします……。

 

 ……?

 …………っ!?

 

 変なことを考えてしまったからでしょうか、とうとう僕には幻覚まで見え始めてしまいました。

 

 「ご主人様、状況ですが――」

 

 歩いていった先ではまた一人僕の知った顔をした人物――ふわふわとした金髪に優しい面立ちをした美青年――がいたのです。そしてこんな状況で会うはずがないその人に、グスタフ君は親しげに近づき、ライラさんは「ご主人様」と呼んで何やら報告を始めています。

 

 どうして……、どうしてアル・コレオ君が?

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