第172話

 グスタフ君が「ご主人様」と呼ばれる怖ろしい裏社会の人物ではなかったというのはほっとしました。しかしこの人達の関係者であることは確かなので、そうなるとグスタフ君も裏社会に関係があるということ……?

 僕は貴族に関係する人間のとんでもない事情に踏み込んでしまったというのでしょうか……。

 如何にも朴訥とした雰囲気の彼が悪い人に騙されているだけ……と考えるには、僕は既に累々と横たわる“それっぽい”人達を見てしまいましたから。

 

 そうなると直接グスタフ君に事情を聞きたい気持ちがありますし、そもそも他の人よりよっぽど話しかけやすいのですが、再び移動し始めた今はグスタフ君を先頭にして僕との間に三人がいるのでそれもできません。頭越しに大声で話しかけるなんてできるはずがないのです。

 

 「む……」

 「どうされましたか、グスタフ様?」

 

 そんなことを考えていると、ふとグスタフ君が足を止めました。ライラさんも不思議に思ったようですが、その一方で即座に周囲を警戒する仕草も見せています。

 

 「来るぞ、敵襲だ。サイラはそいつのことを守ってやってくれ」

 「サイラってば、わかったの!」

 

 敵襲……、普通に生きていれば一生聞くことのない言葉ですが、今はそういう状況だということを改めて認識させられて胸がドクンと鳴りました。というか「そいつ」って……、そういえば名乗ってもいなかったことに今さら気付きました。アル君やグスタフ君は有名だからこちらからは一方的に名前と顔を知っていたのですが。

 

 名前のことを気にしている間に無遠慮に僕の腕を掴んだサイラさんに引かれて僕は少し後ろへと移動しました。小柄なわりには力が強いのですね、この人……。まあ、使用人の格好をしているということは日常の雑事が仕事であって、そうすると腕力はある程度あって然るべきなのでしょう。

 

 「大丈夫、近づいてくる気配は弱そうなのばかりなのよ?」

 「は、はあ……?」

 

 にこにこと笑顔を崩さないサイラさんを見ると、前方に陣取る面々への信頼が感じられます。グスタフ君だけでなく、ライラさんとルアナさんもそれほど暴力に長けているというのでしょうか。確かに底知れない怖ろしさを感じさせられるお二人でしたが……。

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