第171話
制服こそ着てはいませんが、印象に強く残る外見は見間違えようもありません。その大柄な体躯もそうですが、背筋のすっと伸びた姿勢からくる武人然とした品の良さとでもいうべき雰囲気は
そう、あの人は僕が知っている学園関係者……というより学生、です。
「ん……? 君は魔法道具の……?」
なんと、向こうも僕のことを覚えてくれていたようでした。会って少しとはいえ話したばかりだから当たり前……と思うかもしれませんが、学園の有名人の片方ですし、何より貴族のご令息ですから、本来は僕とは住む世界の違う人です。
ヴァイシャル学園の学生という特殊な場所での特別な環境であるからこそ、関係を持つこともできるというだけで、実際に貴族生徒の中には庶民生徒とは目もあわせないという人もいない訳ではありません。
「あ、えと、そ、そうです、アル君にも見てもらったあの試作品がとられてしまって……」
やり取りを覚えていてもらえたというよりは、ちょうどその話題がでたということで、僕はさっそくここにいる理由を告げますが、グスタフ君はそのちょっと怖ろしい顔をしかめるばかりでした。
……そう、グスタフ君です。離れた場所で見てもその体格から見当がつきましたし、こうして近くで顔を見れば間違いようもありません。
だけど、この状況がそれでも僕に疑念を抱かせます。
僕から革袋に入った試作魔法道具を奪い取っていったあの怖い人は、もはや確信を持って裏社会の人間だろうと考えています。それをどうやら追っている一味の中の一員――どころか「ご主人様」?――が僕の学園での同期だなんて……。もはや荒唐無稽な話です。
「……どういう訳だ? なぜ巻き込んでいる?」
直接向けられた訳ではありませんが、厳しく険のある声に僕の肩が震えます。
「グスタフ様、この学生の方は私物を取り返すためにデルタファミリーの構成員を追っている様子でした。なので、勝手に行動されるよりは連れていってご主人様の指示を直接仰ごうと同行しているのです」
「そうなのか? まあ、そういうことならいい……のか」
ライラさんがすっと前に出て、全く物怖じせずに流ちょうに説明をしました。
その様子は説明や報告……というよりは、“言いくるめられた”というのがしっくりときます。貴族であり見た目も怖いグスタフ君が、年齢通りに子供扱いされているようにすら見えてきます。
それに今のライラさんの言葉って……、例の「ご主人様」はまたさらに別の人ってこと……? なんか全く聞いたことのない言葉も含まれていたし……。
謎が増えるばかりで混乱し始める僕をよそに、グスタフ君は学園とさほども変わらない様子で「確かに――に聞けば大丈夫か」とぼそぼそと呟いています。肝心の部分が聞き取れませんでしたが、ルアナさんが「相談役」と呼び、メイドさん達が「ご主人様」と呼んだ人物のことは、グスタフ君からの信頼すら勝ち取っているようです。
僕の中ではまだ暗闇に立つ影としてしか思い浮かべられていなかったその人物が、グスタフ君より大柄で、見ただけで子供が泣き出すくらいに怖ろしい顔で、全身に傷跡があるような裏社会の帝王みたいな姿をとって高笑いをし始めます。
これ……もしかして僕は会った瞬間に“消されて”しまうのではないでしょうか?
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