第165話

 有名人に声を掛けられたことには驚きましたけど、そんなことより……。

 

 「これはですね、確かに武器としても使えるでしょうけど、用途の広さこそがウリで――」

 

 聞かれたのであれば話さない訳にはいきません。何故なら魔法道具のことなのですから。

 あくまでも自習での試作ということもあって簡単なものですし、動作の単純さからわかりにくいかもしれませんが、これの可能性というのは大きいのです。そこをわかりやすく伝えるために、さっきのクラスメイトにもあえて“威力”と武器を連想させるような言葉を使って説明していましたが、それはあくまでも言葉の綾というものです。

 とはいえそこに興味を持ってもらえたということならば、……そして僕の説明を嫌がらずに真剣な顔で聞いてくれているということにも報いるために、今一度そこに立ち戻っての説明はする必要があるでしょう。

 

 「――ということなのですが、先ほどの質問にあった武器を想定ということだと打ち出して打撃を加えることになるでしょうが……、それだと弾となるものを消費しないという利点を差し引いても射程の短さが問題点でしょうね」

 

 やはり声を掛けてきた時の武器利用については特に興味があったようで、話題がここに入ったところでアル君は「ふむふむ」と大きく頷いています。その後ろでグスタフ君はどこか呆れも入った様子で「魔法を語る時のアル君みたいだ」と言ったようですが、光栄だと思えばいいのか学生であればそんなものでしょうと思えばいいのかどちらでしょうか。

 とはいえ、考えて見ればこのお二人は戦闘・戦術科に所属するのでした。魔法道具の一般利用よりも武器としての可能性に興味が強いのは当然でしたね。

 

 「射程は確かに欠点だろうけど、弾は消費がどうというよりない・・こと自体が大きな強みになるとは思うよ」

 「……?」

 

 アル君がふと呟くように言った言葉の意味がわからず、思わず僕は口を止めてしまいました。弾がないこと自体が強み……? どういうことでしょうか?

 

 「どこで使っても痕跡が残らないからね。作動時に爆音がないのもいい」

 

 僕の表情を見たアル君がさらに詳しく説明してくれましたが、やはりよくわかりません。痕跡が残らないって……、残ってもいいのではないでしょうか? 犯罪に手を染める裏社会の人間ではないのですから……。

 

 「どういう――」

 

 わからないことはわからないでいるより質問した方が良いですからと、口を開こうとしたのですが、そこはアル君が話題を遮る方が先でした。

 

 「ああ、ごめん気にしないで。それよりその魔法道具、うまく完成するといいね」

 「はい! 何らかの形になりましたらぜひまた見てください!」

 「うん、楽しみにしてるよ」

 

 そういってアル君はグスタフ君と歩き去っていきます。

 噂に聞くとおり優しい雰囲気の人でしたけど……、どこかこう……それだけではない底の深さのようなものも感じました。

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