普通の生徒はかく語る・閑話編

第163話

 僕はヴァイスにある名門ヴァイシャル学園に通う一年生で、名前をオルディナリアといいます。男なのに女性的な響きのある名ということで、幼い頃にはからかわれることもありましたが、僕としてはとても気に入っていて誇りに思っている名です。

 理由としてはその響きは女性的であるという前に、とても流麗な印象を与えるものだと思えるから。とても一般的な商家の息子として生まれ育った僕ですが、そうした優雅なものが好きなのです。

 

 そんな僕が特に流麗だと思えるものが自分の名前以外にもあります。……それは魔法道具です。

 魔法使いではない者でも使える便利な品であり、その効果によっては日常生活から戦闘にまで活躍する。それを実現する内部構造は緻密で……僕の心を打つものでした。

 

 ヴァイシャル学園では僕は当然、学術科に所属しています。二年生になれば自然探求専攻へと進んで、既存の魔法道具をより良くするだけでなく、まだ世にないような新しい魔法道具をどんどん作れるような職人を目指したいと思っています。

 

 と、名門へと入学を果たした一年生らしく夢ばかりは大きい僕ですが、実際のところ成績は中の中、学術科のど真ん中といった感じです。入学できただけで将来は安泰とまで言われるヴァイシャル学園での真ん中というのは誇れること……ではあるのですが、やはり人間というのは上を見てうらやんでしまうものなのです。

 

 上ということで、今年の新入生ならすぐに思い浮かべるのは……いえ、先輩でも先生でもきっと同じですが……、戦闘・戦術科に所属するアル・コレオ君を置いてほかにはないでしょう。

 そもそも戦闘・戦術科に留まらず、入学時には主席として挨拶もしていたので注目度が高いのは当然のことなのですが、その印象はそれだけではありません。

 

 入学した時点で四文字のレテラを扱えるマエストロだ。

 強い魔法にこだわらず、柔軟に一文字も使いこなす実戦的な魔法使いでもある。

 それでいて、その魔法理論への造詣の深さには学術科の先生でも舌を巻くほど。

 もう一人の有名人であり、彼の親友でもあるシェイザ家の子弟グスタフ君とも打ち合えるほどに、魔法抜きの戦闘能力も高い。

 入学試験では、お忍びで訪れていたどこかの国の達人と手合わせをして、その実力を認められたらしい。

 実習の途中で姿をくらませて、人知れず恐ろしい魔獣に立ち向かって見事討ち取ったなんて噂まである。

 

 なんだか真偽の怪しい……というか、盛大に尾ひれがついているのではないかと疑いたくなる話もありますが、とにかく学園の歴史上でも類を見ない才人であるということ。

 伝え聞く話では、貴族で実力もある人物でありながら、誰にでも優しく礼儀正しい素晴らしい人柄であるということらしいです。

 まるでおとぎ話の登場人物のようで、僕なんかがかかわりを持つことなんて絶対にないのでしょうけど、そんな人が同学年にいるということは刺激になります。実際に、僕も今の成績に満足せず上を見る切っ掛けとなっているのですから。

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