第160話
「お見事でした」
戦闘の終了と見てすぐさま寄ってきたライラが労いの言葉をかけてくる。
「ライラも、いい指示だったよ」
「そ、そんな……あたしなんて……」
言葉を返すと照れて戸惑うライラだったけど、実際に助かったんだからほかに言い様もない。
「……ひゅう、……ひゅう」
目の前では仰向けに倒れたメンテが頭や目鼻からの流血で顔中を真っ赤にしながら、不自然な呼吸音で喘いでいる。この様子だと、警戒しなくてももう魔法も使えないだろう。
そしてこうなったということは、その行使していた魔法道具も……。
「手応えのある良い使い手だった……、人ではなかったが」
そう言いながら既に剣も収めて近づいてきたグスタフは、確かに良い笑顔をしていた。
「助かったよ、グスタフ。あの剣の魔法道具も一緒に相手するとなると、さすがに危なかった」
「お互い様だよ、アル君。あの厄介な魔法を掻い潜っていけるような速さは、今の俺にはない」
お互いに「いずれはこの状況を一人で切り抜けられるくらいに強くなってみせる」という意思を込めて、不敵な笑みを交わす。
「さて……、これはどうするんだ?」
「……た――がはふっ! ……ひゅう、……ひゅう」
淡々と聞いてきたグスタフの言葉に反応したのか、何かを言おうという素振りを見せたメンテは咳き込み、いよいよ細くなってきた呼吸音ながら目線でこちらに訴えかけようとしている。
何を言いたいのかもわからないけど、まあ命乞いでもしているんだろう。向こうから敵対しておいて、助けてもらえる可能性が一ミリでもあると思っているのが、逆にすごい。
「どうするもなにも、消えてもらうだけだよ」
「ひひゅっ……!?」
特に何の感情も込めずにグスタフとライラへと向けて話すと、足元で絶望の息を吐く音が聞こえた。
このメンテの“中身”はともかく、外面的にはヴァイスでも名の知れた冒険者だ。だから息の根を止めたうえで、痕跡も残さないように処理しておかないといけない。
「まあ、まずは……」
そういって右手をメンテに向けつつ、どの魔法を使うか考える。雑に風刃で出血させたり火球で爆散させたりすると、余計に大変になるから、ここは岩で覆ってから燃やしてかまどみたいにすれば――
空気の供給も必要かとか、下手して爆発とかしないように気をつけないととか考えつつ魔法を構成し始めていると、不意に近づいてきた気配を感じて動きを止めた。
人気のない場所だからと派手にやり過ぎたかと一瞬焦ったけど、三つの気配のうち二つはよく覚えがあることに気付いてほっとする。というか、これは殊更に気配をアピールして僕に気付かせようとしているんだろうね。
「ユーカ君……」
「…………」
そして姿の見えた気配の主の名前を僕は呟いた。後の二人――一応の監視役としてつけておいたラセツとサイラ――は少し離れた場所で周囲を警戒しているみたいだ。
名前を呼んだものの当のユーカからは反応がない。ただ無言で血塗れのメンテを見つめている。一方でメンテの方はというと、目がよく見えていないのかユーカの名を口にするでもなく「……ひゅう、……ひゅう」と浅くて細い呼吸を繰り返すばかりだ。
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