第157話

 「ちょこまかとぉ……っ!」

 

 苛立ちもあらわにメンテはさらなる火球を場に放ってくる。

 

 「まずは前進!」

 

 それに臆せず前進を開始すると、メンテは驚く様子も怯む様子もみせずに集中を高めているようだ。おそらくまたどこかに水塊を出現させようとしているんだろう。

 

 「来た」

 

 そして火球の弾幕がない場所を目掛けて真っ直ぐに突っ込んでいた訳だけど、走り出してすぐにいくつかが軌道をぐいと曲げてこちらへと飛んでくる。直接に狙ってくるものがあれば、この先の進路を塞ぐようなものもある。

 メンテからすれば魔力量にまかせて火球をばら撒きつつ、適当に狙った位置へと曲げているだけなんだろう。それでもグリッチなんていう理外の方法で実現させている軌道を先読みすることができない以上は、迎え撃とうが避けようが後手に回らざるを得ない。

 

 「それから右で……」

 

 ついさっき聞いた内容を復唱しつつ右へ飛ぶと、ちょうどそこだけ次々に着弾する火球の隙間になっていて、近づいた分を下がらずともかわすことができていた。

 そう、先読みができなければひたすらにジリ貧の状況で、メンテの魔力切れにでも期待するくらいしか手がなくなってしまう。実際に恐ろしい戦法だ。

 僕なら……負傷を覚悟していくつかくらいながら突進すれば勝てるという手応えもある。あるけど、それは無防備に攻撃を受けるということで、向こうの手の内次第では取り返しのつかないことにもなる。

 さらにいえば――

 

 「ぬぅん! ふん!」

 

 ――今も聞こえている金属が打ち合う音と気合の声。剣士が三人増えるのと同じといえるあの魔法道具だって、この厄介な火球群と組み合わせられていたら脅威度は今の比じゃなかったはずだ。

 

 戦況を冷静にみて一見無秩序な状況を読み解いてくれるライラと、厄介なものへと臆せずに立ち向かって引き受けてくれるグスタフ。結局のところ、さっきメンテに言ってやった通りに、自分にない部分を補ってくれる仲間を集めることが、理不尽な状況での活路に繋がる。

 

 「オーセアぁ! 吹き飛びなさぁい!」

 「……それで、左っ!」

 

 前方からこっちに覆いかぶさるように展開された水塊は、飛び込んできた火球と接触することで純粋な爆発力をまき散らす。特に変わった形状の水であったからか、全方位への爆発ではなく、僕がいた場所へと集中した破壊力を振り撒いてくる。

 

 ……ここまでの戦闘でも確かにメンテは時に水塊の形状を変えていたように思う。それをどう使い分けているかまで把握できていなかったけど……なるほど、ここぞという時に範囲より威力を発揮するようにしていたのか。

 そしてそれを読み切っていたライラの指示に従っていたことで、これまでなら防御でも跳び退って避けるでも、再び距離が空いてしまっていたであろう状況で――

 

 「見えた!」

 

 ――まだ空間に火球は残っているし、メンテは間髪入れずに次を放とうともしている。だけど、僕の目の前にはそのメンテへと辿り着ける空隙が道となって見えていた。

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