第156話

 追い込まれたメンテが繰り出してきた魔法道具――勝手に動いて襲い掛かってくる三本の刃――は、グスタフが豪快に打ち合って釘付けにしてくれている。

 だからあとの問題はこの厄介な変則軌道魔法だけ。

 

 「ヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティ、――」

 

 また新たに火球が空間へと放り投げられる。そして跳び上がっても手が届かないような高い所や、数歩は離れたような所へと飛んでいたそれらは、唐突にググっと、見えない何かに引っ張られてでもいるかのように、軌道を変えてくる。奇怪な現象だけど、それをこうも使いこなされると厄介極まりない。

 

 だけど、相手が同じことを繰り返している間に、時間を稼げたこっちの勝ちだ。

 

 「右に! それから一旦下がってください!」

 

 鋭く、落ち着きのあるライラの声が背後から聞こえて、僕はそれに間を空けずに従う。

 

 「っ! ……? ヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティ、――」

 

 とん、とん、と跳ねて動いた僕が通り過ぎた後で、あらぬ場所から飛んできた火球が着弾し、時には不意に設置された水塊に触れて爆裂する。その様に驚き戸惑うメンテだったけど、手を止めるようなことはなく攻撃を続けてくる。

 自分が攻勢にあるのなら、それを維持して圧倒する。強大な魔獣を相手にする冒険者らしいし、膨大な魔力を有しているメンテならではともいえるけど、相変わらず“相手が変わる可能性”というものを軽視しているね。

 そういう意味では、このメンテという転生者は、ゲーム『学園都市ヴァイス』に心が囚われているのかもしれない。確立された攻略法はいつでもいつまでも有効だし、どんな“分岐”をしていたって用意された範囲内からキャラクターの言動が変わることはない。そういうゲーム的思考に……。

 

 そう考えると、ある意味僕は運が良かった。十歳で前世を思い出した時には確かに調子にのったけど、ゲーム知識を利用して手っ取り早くグスタフを懐柔しようとしたあの迷いの森で、思い通りにはいかずに危うく死にかけるという経験をできたからだ。

 

 「前に……、それから右、左と動いてから、後は直進で接敵できます」

 

 さっきより距離の近い背後から、王手をかけるための手順が示される。この短時間にメンテの思考の癖とグリッチ魔法の特徴を読み切った頼りになる声に思わず口角を上げつつ、僕は足に力を込めた。

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