第155話

 「ヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティ、――オーセアぁ!――ヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティ、――」

 

 有効だと思えばそれを何度でもやる、というのは普通の思考だ。つまり、メンテは空間を制圧するようにいくつも火球を放ち、適当に飛んだように見えたそれらが時にはこちらを直接狙うように、あるいは少し離れた場所で水塊と接触して爆裂するために方向を変える。こうなってくると、そのまま明後日の方向へと飛んでいったものまで、何かあるのではないかと警戒せざるを得なくなってしまう。

 

 それにしても二文字の火球と一文字のただの水とはいえ、かなりの魔力量だ。小規模で単純な魔法でも魔力を消耗しない訳じゃないんだから、膨大な数を放てば普通は疲弊し始める。なのにメンテは僕がダメージを与えたことによる消耗は見て取れる一方で、魔法を使うことによる疲労は外見上は見えない。

 これはメンテが魔力面でのタフさも兼ね備えた冒険者らしいマエストロだっていうことではあるけど、それだけじゃない。この鬱陶しいグリッチ魔法が、特に魔力の消費を必要とするようなものではないということでもある。

 こっちからすると対処の難しい厄介な攻撃なのに、向こうからすると二文字までの魔法を連発してるだけ……なんて、理不尽にすら思えてくるよ。

 

 「くっ! このっ……テラ! おっと」

 

 足を止めないで細かく立ち位置を変えながら、飛んできた火球を避け、それでも当たりそうなものは軌道上に置くようにして岩壁を発生させて防ぐ。制御の安定性ということでは僕も中々だし、根本的な身のこなしがメンテとは雲泥の差だから、これでほぼ完ぺきに防げている。

 

 「うふ……いつまでそうしていられるかしらぁ? ……ヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティ、――」

 

 重ねていうけど、メンテは転生者だということ以上に、冒険者っぽい感じが目立つ。

 有効だと思えばそれを何度でもやる。相手が受けに回るようなら、その状況を押し付け続ける。そういうところが、だ。

 

 相手が獣であれば、それで正しいんだろうね。ゲーム的にいえば、一でもダメージが入るならいつかは倒せる、というやつか。

 

 だけど、甘い。甘いと言わざるを得ない。裏社会の人間なら、下っ端でも鼻で笑うことだろう。どんなに愚かで惨めに見えるような取るに足らない相手でも、同じことを繰り返せばいつかは対処してきて、逆にこちらが手痛い反撃を受ける。屈強な借金取りが、貧相なクズのところへ行って忽然と姿を消す、なんて話は別に珍しいようなことでもない。

 つまるところ、魔獣に比べれば虚弱な人間という生物の恐ろしいところは、学習能力にあるんだろう。特にそれが優れたような者であれば、短い間でも目の前で見れば、予測が可能になるほどに把握するなんてこともあるんじゃないかな。

 

 「大変お待たせいたしました、ご主人様」

 

 少し離れた後方で、メイド服姿のライラが丁寧にお辞儀をする気配がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る