第154話

 三本の刃は時に人間が持っているかのように滑らかに連携して斬りかかり、かと思えば急に機械みたいな直線的な動きで急襲する。

 

 「いぃや! えい! おぉ!」

 

 それをグスタフは勇ましい掛け声で次々と弾き返していた。時に強く斬り払ったり、剣身と地面で挟み込んだりして折ろうと試みている様子だけど、そこまではうまくいかないようだ。

 とはいえ、あれを引き受けて時間を稼いでくれるなら、それで十分。

 

 「ヴェントっ」

 

 既に走り始めていた僕は、一文字のレテラで発動した爆風を踏んで加速する。

 

 「っ! ヴルカ放出パルティぃ…………オーセアぁ!」

 

 即座にこちらが対応して反撃にでたことに驚きつつも、メンテはしっかりと反撃のグリッチ魔法を放ってくる。

 

 「ヴェント!」

 

 さっきは防御しつつ突っ込んだけど、今度はグスタフのカバーもないし、何より足を止められたくない。ということで、さらに風魔法による加速で、無理やりに方向を変えつつも駆け続ける。

 

 「ヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティぃ!」

 

 予想と違う動きでかわしながらも急接近されて焦ったのか、メンテは火球をばら撒いてくる。とはいえ、ここで高威力の四文字魔法を一発撃つよりも、瞬時に撃てる二文字を連発してくるあたりはさすがの実戦慣れといったところか。実際にこれではこのまま突っ込む訳にもいかず、さらなる軌道変更を余儀なくされるな……。

 

 「やっぱり、あんたの方が甘いのよぅ」

 

 と、次のレテラを脳内で準備していたところにメンテが嫌な笑みを向けてくる。なんというか、一々マウントをとるのが好きな奴だ。

 

 「はあ!?」

 

 だけど、次の瞬間起こった現象には、さすがに僕も驚愕させられる。進路を妨げるようにばらばらに飛んできていた火球が、前触れなくその軌道をぐいんと捻じ曲げたのだった。

 

 「オーセアぁ」

 

 そして鬱陶しいくらいに余裕を含んだ声でメンテが発動した水塊に、三つの火球は吸い込まれるようにぶつかっていく。

 

 「テラ滞留スタレ強化フォルテ!」

 

 我ながらよくとっさにだせたと自画自賛したくなるような瞬時の三文字魔法。強度を強化した岩の壁が、僕の目の前で隆起展開し、間髪空けずに轟音が鳴り響いた。

 

 三つの火球だったけど、さすがに単純に三倍の威力、という訳でもない。けどさっきまでのものよりも倍近い威力が音からは察せられた。

 

 「うふふふぅ……」

 

 現に強化まで施した岩壁は、僕の意志で消すよりも前に自壊して消滅する。つまり、今のを防ぐので精一杯だったということだ。まあ、ただ威力が強いだけの魔法は別にいい。ちゃんと対応すれば四文字でなら対抗もできる。

 

 そんなことより……だ。その直前のあれ、あんなにぐいっと方向を捻じ曲げる放出魔法なんて見たことも聞いたこともない。頑張って制御すれば野球の変化球程度には曲げられるけど、逆にいえばその程度だ。

 

 「属性爆発も知らなかったエアプがぁ……、軌道変化グリッチなんて知る訳ないわよねぇ…………うふ」

 「『学園都市ヴァイス』に戦闘関連のバグはないんじゃなかったのかよ……」

 

 思わず愚痴をこぼすと、距離のあるところでメンテは口角を嫌らしい角度に吊り上げる。

 

 「それって発売当初の評判じゃない、馬鹿ねぇ」

 「知らないよそんなの、僕はネットの情報をあまりいれずに遊ぶタイプなんだ」

 「エアプはみんな、そう言うのよぅ」

 

 やっぱりむかつくな、こいつ。まあ、それはそうと……。

 

 「……」

 

 ちらりと視線を後ろにやると、少し距離をとって見守っていたライラが、ほんの小さく首を左右に振ってから、唇を微かに動かした。その意味するところは「もう少しです」。つまり、あと少し僕が粘って情報を引き出せばいいということだ。

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